マンハッタン・ラプソディ

1997/06/23 ソニーピクチャーズ試写室
バーブラ・ストライサンドとジェフ・ブリッジスが共演した秀作ラブコメディ。
最後のプッチーニはわかってるけど感動する。by K. Hattori



 バーブラ・ストライサンドの製作・監督・主演最新作は、センスあふれる大人のラブコメディ。つきあう美女にことごとくコケにされ、女性不信になってしまった大学教授が、容姿は並み以下でも知的な女性と、セックスレスの結婚生活を営もうと考える。始めはうまくいくように見えた結婚生活だが、やがて妻は欲求不満になって……、というお話。古いフランス映画をリメイクした本作では、主人公たちの物語自体は本当にちっぽけでささやかなもの。それをハリウッド流のゴージャスな娯楽作に仕立て上げている秘密は、豪華なキャスティングにあります。変わり者の大学教授に扮するのはジェフ・ブリッジス、お相手の女性教授がバーブラ・ストライサンド、美しい妹にミミ・ロジャース、姉妹の母にローレン・バコール、妹の結婚相手がピアース・ブロスナン。これは主要キャストを半分ずつにわけても、それぞれそこそこのレベルの娯楽映画が作れますよ。

 話は他愛のないもので、この類の物語を凡庸な監督が演出すると、本当に凡庸な映画になってしまう。ストライサンドの演出は、決めるべき所できちんとシャープな決め方をしてくれるから、観ていてもたるんだところがないんです。男の身勝手な要望が生み出す混乱状況を描くコメディですが、視点が混乱の張本人であるジェフ・ブリッジスの側ではなく、それに付き合うストライサンド側にあるのは上手い構成。たぶんブリッジス側から物語を描くと、周りがなぜ彼の無茶とも思える提案につきあうのか、説明するのが苦しくなったと思う。この映画ではストライサンド扮するローズ・モーガンのキャラクターを掘り下げて、彼女がブリッジス扮するグレゴリー・ラーキンに向けている好意や愛情に説得力を持たせている。取り巻きの人物もローズの方が多く、彼女の陰影の濃い人物像を立体的に描くことに成功してます。

 ローズの周辺人物でもっとも強烈な個性を発揮しているのは、ベテラン女優ローレン・バコールが演ずる母親ハンナでしょう。バコールだからこそ、娘からの「美人ってどんな気分?」という質問に「いい気分よ」と臆面もなく答えられる。この映画で中心になるのはローズとグレゴリーの恋の行方ですが、ローズとハンナ母娘の関係が伏流のように物語を下から支え、映画全体に深みを与えているのです。ローズとハンナの関係に比べると、妹やその亭主との関係は添え物みたいなもの。それでも役者が大物だから、エピソードが霞んでない。こうしたキャストのバランス感覚がいいんです。下手な監督がこんな豪華キャストをあてがわれたら「せっかく出てくれているんだから」と妙な色気を出して、脇にもいろいろ芝居をさせ、それで物語全体のトーンを台無しにしてしまうでしょう。でもストライサンドはそんな欲張ったことをしない。この映画のブロスナンは完全に脇役に徹して、素晴らしい効果を出してます。

 ローズがグレゴリーにタイピンをプレゼントする場面と、グレゴリーがローズの食事を見守る場面が素敵です。


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