トゥリーズ・ラウンジ

1997/06/16 TCC試写室
失業し恋人にも去られた冴えない中年男が、高校生の娘と恋に落ちる?
万年脇役スティーブ・ブシェミの初映画監督作品。by K. Hattori



 『ファーゴ』に出てきた「へんな顔の男」ことスティーブ・ブシェーミの長編映画初監督作品です。彼のフィルモグラフィを見ていて気付いたんですが、僕は少なくとも日本公開された彼の出演映画の半分は観てます。89年の『ミステリー・トレイン』、90年『ミラーズ・クロッシング』、91年『バートン・フィンク』『ビリー・バスゲイト』、92年『レザボア・ドッグス』、93年『ライジング・サン』、94年『未来は今』『ハードロック・ハイジャック』『パルプ・フィクション』『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』、95年『デスペラード』『サムバディ・トゥ・ラブ』『デンバーに死す時』、96年『ファーゴ』『カンザス・シティ』『エスケープ・フロム・L.A.』そして『トゥリーズ・ラウンジ』。どこにどんな役で出ていたんだか、覚えていない映画も多いですけど……。

 ブシェーミはずっとインディーズ映画を中心に活躍してきた人だし、今後の役者人生の中でもメジャーな映画で主役を張ることはまず絶対にあり得ないだろうという役者です。タフなヒーローは絶対に無理だし、ロマンチックな役も似合いそうにないしね。基本的にこれまでもこれからも、個性的な脇役で通す人でしょう。彼はたくさんの映画監督の現場に入って、映画をどう作るのかということを見知っているし、こういう人が映画監督になって、案外面白い映画を撮るのかもしれないと期待させるものがある。顔はヘンでも頭はよさそうですもんね。

 『トゥリーズ・ラウンジ』という映画は、面白いことは面白い。けどやっぱり、どうしようもなくインディーズ映画の匂いがプンプンする映画です。身の回りの小さな出来事をていねいに切り取って、じつに上手にユーモラスに見せているんだけど、そこから大きく広がって行くことのない映画だと思う。ブシェーミという人に、ハリウッドメジャーが大予算のスペクタクル大作を撮らせようとしても無理でしょうね。ただアメリカにはこうしたインディーズ映画の市場というものがちゃんとあるから、ブシェーミもその中に食らいついて、監督としてのキャリアを伸ばして行くかもしれません。

 今回の映画ではヒロインとして『KIDS』のクロエ・セヴィニーが出演していることが話題になってます。さては冴えない中年男と美少女の恋物語かと思っていたら、内容はそうじゃなかった。冴えない男の情けない日常の中の1エピソードとして、セヴィニーとのからみが少しあるだけです。彼女が登場するのは映画の中盤になってからだし、最後の方で消えちゃいますしね。むしろエリザベス・ブラッコ演ずる、主人公の元恋人テレサの方が、物語の中での比重は大きい。ま、セヴィニーは少ない出番であれだけ鮮烈な印象を残すんだから、やっぱりヒロインと呼ぶべきなのかもしれないけど……。

 サミュエル・L・ジャクソンがほんの少し顔を出すけど、彼はハリウッドメジャーからインディーズまで幅広くこなせるいい役者だなぁ……、と感心してしまった。


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