シェフとギャルソン,
リストランテの夜

1997/06/08 恵比寿ガーデンシネマ2
イタリア移民の兄弟が経営するレストランに大物ゲストがやってくる。
経営難のレストランが起死回生の大博打。by K. Hattori



 原題は「BIG NIGHT」ときわめてシンプルだが、邦題はやけに長ったらしい。イタリアから移民した兄弟と、彼らの経営するイタリアン・レストランの物語だ。芸術家肌の料理人である兄と、店の経営資金をやりくりする弟の確執や悪戦苦闘ぶりを、周辺の人物を交えながら、時におかしく、時に残酷に描き出す。監督・脚本・主演を兼任するスタンリー・テュッチは、ハリウッド映画の印象的な脇役として名の知れた人物。結構いろんな映画に出ている人ですが、彼に監督の才能があったなんて知らなかった。共同監督を務めたキャンベル・スコットも、自動車ディーラー役でちゃっかり顔を出している。二人の間で、どうやって監督としての役割分担をしているのだろうか。そんなことに、ちょっと興味もある。

 本格的なイタリア料理に客が寄りつかず、経営難に陥っている兄弟の店。通りの向かい側では、アメリカ人向けにアレンジした、まがい物のイタリア料理を出す店が大繁盛している。同じことをすれば客が喜ぶとわかっていながら、料理人の兄は頑なに「本国の味」にこだわる。店の経営のことを考える弟は、料理や味に対して多少の妥協はやむを得ないと思っているが、兄はそんな弟の意見を聞きいれてはくれない。何とかアメリカの中に溶け込み、そこに根を下ろして生活しようとしている弟に対し、兄は頑固にイタリア人のままなのです。弟は英語もまず不自由なくしゃべることができるのに、兄は日常会話も片言のまま。弟には内緒で、イタリアに戻って働くことも考えているらしい。

 映画には「兄弟もの」というジャンルがあるのですが、『バックドラフト』や『リバー・ランズ・スルー・イット』など、どちらかと言うと「女性向き」の甘ったるい話になる傾向が多いものです。この映画は「兄弟もの」でありながら、女性客に媚びた甘ったるさがない。料理のエピソードが多いので、その点では女性客が喜びそうですが、人間ドラマの部分は、安っぽい料理のように砂糖で味をごまかした部分がない。素材に正面から向き合って、きちんとその持ち味を引き出してます。

 主人公の恋人を演じたミニー・ドライバーは、『スリーパーズ』に出演してたときより出番が多いぶん魅力的に見えます。ただし、僕はあまり彼女に色気を感じない。主人公がドライバーとキスはするけどセックスは拒み、向かいのレストランの女房イザベラ・ロッセリーニと真昼の逢瀬を楽しむというエピソードには、なんとなく納得してしまった。失礼な話だけどね……。

 映画館に外国人の客がきてたんですが、この映画って台詞の3分の1ぐらいはイタリア語で、そこにも日本語の字幕しか出ていない。料理人の兄貴がイタリア人の床屋に行って世間話をする場面や、最後に海岸でつかみ合いの兄弟喧嘩になる場面など、イタリア語の応酬になると、この外国人客がゴソゴソしゃべり出すんだよね。「何言ってんだかぜんぜんわかんねぇよ〜」とか、ブツブツ文句言っているに違いない。お気の毒でした。


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