心の指紋

1997/05/30 日本ヘラルド映画試写室
末期ガン患者の少年囚と心に傷を負ったエリート医師が伝説の湖を探す。
マイケル・チミノ監督6年ぶりの新作はロードムービー。by K. Hattori



 『ディア・ハンター』でアカデミー賞を受賞したマイケル・チミノが、『逃亡者』以来6年ぶりに撮った映画は、ウディ・ハレルソンとジョン・セダ主演の、ファンタスティックなロードムービー。僕はチミノ監督の映画をスクリーンで観るのが初めてなので、チミノ作品としての感想は特にない。主演のハレルソンは最近主演作が目白押しで、今年の夏はこの映画の他に『キングピン/ストライクへの道』と『ラリー・フリント』が公開される。東京で同時期に3本も主演映画が公開されるような役者じゃないと思うんだけど、たまたま配給の都合やタイミングでこういうことも起こるのが面白い。

 この映画では、なんとハレルソンが医者、しかも若手のエリート医師を演じている。『マネートレイン』の間抜けな弟に診察される患者は、命がいくつあっても足りなさそう。どう見ても切れ者の医者には見えないと思っていたら、脱走した囚人に誘拐される、愛車のポルシェはスクラップにされる、あらくれ者のバイカーに袋叩きにされる、あげくにピストル持って病院強盗までしでかしたあたりで拍手喝采。それでこそハレルソンじゃ。ハレルソンのファンである僕は多いに満足しました。

 末期ガンの少年囚ブルーを演じたジョン・セダが、むしろ物語のリード役です。セダは『12モンキーズ』や『真実の行方』に出演していたそうなんですが、どこにどんな役で出ていたんでしょう。ほとんど印象にない。逆に言えば、この映画におけるセダの印象がとても強いのです。暴力の中で育ち、出会う人ごとに敵意をむき出しにするブルーが、時折見せる年齢相応の表情が魅力的。今後が楽しみな若手俳優になりそうです。

 末期ガンの患者であるブルーは、最新の治療を施しても余命が1〜2ヶ月。彼は病院での治療を拒否し、ナバホ族に伝わる伝説の湖での癒しを求めて脱走する。人質の医者は彼に病院に戻ることをすすめるが、病院に戻ったところで彼の命が助かるわけではないことを、ふたりとも知っている。僕はこの映画を、死を目前にした患者と医者が手探りで、患者にとってのよりよい生き方を探る映画として見ました。かつて末期ガンを患った兄の生命維持装置を止めたことで、心に深い傷を負っている医者は、ブルーとの旅を通じて癒されて行く。同じように医者と末期ガン患者の交流を描いた、ウィリアム・ハート主演の映画『ドクター』という映画がありましたが、それよりはこの映画の方が何倍も面白いと思いました。

 音楽が映画音楽の巨匠モーリス・ジャールなんですが、オープニングで雄大なオーケストラを聴かせたぐらいで、あとは目立ったところがないのが不思議。ナバホが馬を駆るシーンでもオーケストラが鳴ってますが、これはコープランド作曲の「アパラチアの春」か何かで、モーリス・ジャールのオリジナル曲ではない。(曲に合わせて絵が編集してあるから、まるで映画音楽みたいですね。)エンドタイトルでテーマ曲を聴かせるのかと思ったら、それがないまま終ってしまった。


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