ネゴシエーター

1997/05/19 丸の内ピカデリー2
エディ・マーフィがギャグも変装もなしで挑んだ刑事アクション。
マイケル・ウィンコットの悪党ぶりが最高です。by K. Hattori



 エディ・マーフィ主演の刑事アクションだが、見どころは憎々しげな敵役マイケル・ウィンコットの存在感だろう。ちょっと思い出しただけでも『1492 コロンブス』『クロウ』『ストレンジ・デイズ』など、数々の映画で悪党を演じて印象的だった役者だけど、今回の映画でその悪党ぶりに磨きがかかっている。はっきり言って、この映画のストーリーは二流の刑事ドラマで、筋立ても人物配置も使い古されたものばかり。アクションシーンは確かにすごいけど、物語を決定的に面白くさせているのは、やっぱりマイケル・ウィンコット演じるコーダという男の圧倒的な存在感にあるのです。

 映画を観ていると、役柄の面白さと役者の素晴らしさをしばしば混同しがちなんだけど、この映画の場合、役柄は駄目だけど、役者はいいという典型。そもそもコーダという人物は問題が多すぎて、役柄としては支離滅裂で駄目な人物の典型でしょう。冷静沈着で頭の切れる宝石強盗という設定のくせに、部屋に刑事が訪ねてきただけで逆上して殺してしまうし、宝石店襲撃は失敗するし、自分を捕えた刑事を逆恨みして恋人を殺そうとたくらむ。断言するけど、この脚本は三流です。コーダの行動パターンは、ステレオタイプな「狂暴な犯人」でしかなく、ほとんどの面で動機に必然性がない。ところがそれをウィンコットが演じると、こうした脈絡のない行動に一本筋が通る。ウィンコットはかなり強引に、この役柄を自分のものにしています。

 コーダはどこまでも宝石に執着します。彼が刑事殺しでマークされている最中に、それでも宝石店を襲撃するのは、計画が完成した時点で、彼の頭の中では宝石が自分のものになったからです。自分のものを自分が手にするのは正当な権利。だから彼は宝石店襲撃を躊躇しない。逮捕された後も、警察に保管されている宝石に自分の権利を主張する。保釈を依頼した弁護士に、「宝石を売れば金に成る」と言ったのも、コーダにすれば当たり前のことなんでしょうね。彼は押収されて金庫の中にある宝石も、あくまでも自分のものだと信じている。また実際に宝石を持って外に出れば、いかなるルートを使ってでもそれを金に換える自信があるのでしょう。

 最近のアクション映画では、敵が犯罪組織か海外のゲリラかロシアマフィアかCIAか精神異常者と決まっていて、かつてのように悪の魅力をプンプン漂わせた個性的な敵役が出てこなかった。そんな中でここまで徹底して露骨に悪党をやられると、逆に胸がすっとします。

 映画はアクションシーンもよく練られたテンポのよいもので、中でも路面電車を使ったアクションシーンは近年まれに見る大活劇。エディ・マーフィの相棒を演じたマイケル・ラパポートも、例によってぼんやりした感じがいい味。主人公の恋人役の女優も、かわいくてきれいでした。『ブーメラン』のハル・ベリー、『ヴァンパイア・イン・ブルックリン』のアンジェラ・バセットなど、エディ・マーフィの女優を選ぶセンスはいい。


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