愛と勇気の翼

1997/04/18 東京アイマックス・シアター
アンデス山中に不時着したパイロットが奇跡的な生還をとげる実話。
3D映像で描かれるサン=テグジュペリの世界。by K. Hattori



 サン=テグジュペリの読者なら、彼の著書「人間の土地」に登場するアンリ・ギヨメのエピソードをご存知でしょう。アンデス越えの郵便飛行に従事している最中、悪天候で山中に不時着し、そこから徒歩で奇跡的な生還を果たしたギヨメ。「人間の土地」はそんな友に対する、サン=テグジュペリの畏敬の念が書かせた本かもしれません。少し前に公開された『星の王子さまを探して/サン=テグジュペり〜魂の軌跡』という伝記映画では、同じ「人間の土地」から多くの場面を引きながら、残念なことにギヨメのエピソードだけは割愛されていました。今回映画の中でギヨメに出会えたことは、サン=テグジュペリの読者としてとても嬉しいことです。チラシには監督のジャン・ジャック=アノーが古い航空雑誌の記事から映画を作ったと書いてありますが、エピソードは細部まで寸分違わず「人間の土地」に準じたものです。

 映画は固有名詞がすべて英語風になっていて、アエロ・ポスタル社はエアロポスタール社に、アンリ・ギヨメはヘンリー・ギルメ、メルモスはメモーズになっています。でもなぜか、サン=テグジュペリだけは、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリのままなんだよね。どうせならギヨメやメルモスも、堀口大学風にしておいてほしかった。サン=テグジュペリにとってギヨメが英雄であったように、「人間の土地」の読者である僕にとってもギヨメは英雄です。それが「ヘンリー」なんて名前で登場しても、なんだかしっくりこないんですよ。

 40分という上映時間は、3D映画としては妥当な長さだと思いますが、この映画の内容を語るにはやや短い。バル・キルマー扮するメルモスのキャラクターも、トム・ハルス演ずるサン=テグジュペリの人柄も、ほとんど伝わってくることがない。ギヨメと妻の物語にするのであれば、最初のメルモスの登場シーンなどカットして、その分を夫婦のエピソードに使うべきでした。逆にメルモスを入れるのであれば、あと5分は時間が必要でしょう。このあたりの按配は難しいと思うのですが、現状は二兎を追って両方とも取り逃がした感じです。

 3D劇映画の題材として、飛行機を選んだのは正解でしょう。小さな複葉機の眼下にひろがる広大なアンデスの山々が、立体的にうねって見える様子には感動します。遥か頭上から足もとまで広がる大スクリーンに、雄大な風景が映写され、しかもそれが立体的な映像として見えるんですから、映画の内容以前にこれは一見の価値あり。フィルムの面積が大きいのか、フィルムのコマ数が多いのか知りませんが、映像がじつに木目細かく、人物の肌の質感や、飛行機の排気ガスの臭い、アンデスの岩壁の温度まで伝わってきそうです。これはすごい技術ですよ。

 3D映像の見せ方にまだ慣れていないせいか、観ていてすごく疲れる。パンフォーカスの映像は3D効果抜群なんですが、フォーカスがずれると目がチカチカします。画面中央から物が外れても辛い。犬がぴょんぴょん跳ねるなど、縦の素早い動きもフリッカーを起こしてました。


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