グレイス・オブ・マイ・ハート

1997/04/17 UIP試写室
60〜70年代のアメリカ音楽シーンに強い人には面白い映画かも。
中盤まで面白かったけど最後は『スター誕生』。by K. Hattori



 これって新手の『スター誕生』じゃないの? 『スター誕生』は過去に3回映画化されていて、最初は女優、次がミュージカル女優、3度目はロック歌手が主人公だった。今回はそれがシンガー・ソングライターになったというわけですね。売り出し中の女性と、彼女と愛し合いながらも落ちぶれて行く往年のスターという人物配置は、ある種スタンダードなフォーマットとしてアメリカ映画の中に定着しているらしい。『アンカー・ウーマン』の公開は記憶に新しいものです。この『グレイス・オブ・マイ・ハート』も、多分最初は別の物語から出発したのでしょう。それが作っている内に、だんだん『スター誕生』に引っ張られて行ったんだと思います。

 主演のイレーナ・ダグラスはどこかで見た顔だと思ったら、『誘う女』にマット・ディロンのお姉さん役で出てました。今回は同じマット・ディロンと夫婦になります。同僚ソングライター役のパッツィ・ケンジットは、なんだかものすごく久しぶりに顔を見た感じ。『リーサル・ウェポン2』の外交官役が印象的でしたが、『タイムボンバー』以来ご無沙汰だったかもしれません。今回はヌードなしですけど……。エリック・ストルツの奥様ブリジット・フォンダが、レズビアンのアイドル歌手役でゲスト出演しているのも楽しい。彼女はこの時点で実年齢が32歳。う〜む。

 物語は1958年から1970年代までの音楽業界を舞台にしています。当時の音楽事情がわかる人には面白いのでしょうが、僕にはいまひとつぴんと来なかった。主演のダグラスは序盤の娘時代より、子供を産んで、離婚して、所帯やつれした中盤以降の方が役柄にしっくりはまっている感じがします。中でも不倫の恋の終りに、相手の男のアパートの下で小さく手を振るエドナの姿には、ちょっとホロリときました。この直後の歌手デビューの時レコーディング風景は、観ていてなかなか面白かった。録音した歌の上に次々と楽器の音を重ねて行き、それをリアルタイムに修正して音が厚味を増して行く様子は、規模が小さいながら『アマデウス』のクライマックスを思い出させてくれます。

 音楽の楽しさを描いているという点では、少し前に観た『すべてをあなたに』の方が面白い。『グレイス・オブ・マイ・ハート』は音楽映画としては見るべきシーンが少なく、最初のコンテスト場面や、レコーディングでの熱唱以外に、主人公の歌を聴く場面がほとんどない。演奏シーンなども、本人が歌ったり演奏したりしているようにはとても見えないのは問題です。大スタジオでの一発録音から、マルチトラックレコーディングへ進化するスタジオ器材の様子など、見るべき人が見れば、これも面白いのかもしれないけど、僕には興味がない。

 ところでこの映画が『スター誕生』だと気がついた人はどのくらいいるんでしょうか。僕はエドナとジェイが住む海辺の家を見た瞬間に、夫婦の結末を予測しました。予想的中に、悲しい場面なのに思わず笑ってしまったよ。


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