ファースト・コンタクト

1997/03/21 日比谷映画
人気テレビシリーズ「スタートレック」の映画版。特撮はすごい迫力。
各エピソードがうまくかみ合っていないのが欠点。by K. Hattori



 「スタートレック」シリーズの映画化作品であるにもかかわらず、それを完全に隠蔽した予告編や宣伝。要するに映画会社としては、これを「スタートレック」ファン以外の人にも観せたいわけですよね。「スタートレック」であることを隠した、一種の詐術的な広告宣伝の力を借りてでも……。いいでしょう。騙されてあげようじゃありませんか。僕は「スタートレック」のテレビシリーズを昔も今も見てませんし、過去に何本も作られた映画版も1本たりとも観てません。そんな門外漢の観客が、「スタートレック」のディープな世界に間違って足を踏み入れるとどうなるか? 今回はその実験です。

 前提となる世界観や登場人物の設定などに馴染みがないため、いまひとつ物語に入り込めなかったのは事実。しかしまったく意味不明で、物語が理解できなかったかと言えば、それほどでもない。話自体はよくこなれていて、「スタートレック」初体験にしては面白くみることが出来ました。エンタープライズ号のクルーたちが、21世紀の科学者たちに未来の社会システムや科学技術について解説する場面の存在が、「スタートレック」未経験者には理解の助けになります。

 物語は、ボーグの侵略から地球とエンタープライズ号を守る主人公たちの戦いを描いています。ボーグというのは機械化されて個性を失った人間の集合体で、次々と周囲を同化しながら勢力を拡大して行くわけです。同化された人間はそれまでの記憶や個性を失い、ボーグの一部になってしまいます。これって、たぶん共産主義社会のメタファーになっているんでしょうね。面白いのは、24世紀の人類社会も、富や利潤を追い求めず、個人が全体のために働く、一種の共産主義社会になっていることです。もっともこちらは個人や個性を尊重した、理想社会として描かれている。ボーグ社会と人類社会は、共産主義の理想と悪夢をそれぞれ表現しているのです。

 タイトルが『ファースト・コンタクト』と言うわりには、異星人との最初の接触を巡るエピソードがあまり盛り上がらなかったのは欠点。ワープ実験が時間通りに成功するか否か、ボーグの妨害をいかに排除するか、エンタープライズ号をどう救うかなど、相互の関連性が薄い問題が次々に発生するが、こうした問題がすべて「人類の歴史を守る」という一点で結びつかなかったのは残念。この物語の中では、歴史改変の阻止という大テーマも、ボーグに拉致されたクルーの救出という小テーマも、すべて同一の次元で語られてしまっている。大きなテーマの方が抽象的で漠然としているだけに、こうした描き方をすると小テーマの魅力に負けて影が薄くなってしまうのです。もう少し話の構成に工夫が必要だと思う。

 全体を通して言えるのは、この映画が正真正銘「スタートレック」そのものだということ。物語の世界観を共有している観客向けの映画だから、そうでない観客はいまいち物語に入り込みづらい。配給会社の事情もあるんでしょうが、売り方には少し工夫が必要だと思うぞ。


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