Shall we ダンス?

1997/02/23 並木座
同じ映画を2回観ると、それなりに細部まで目が届くようになる。
小さな欠点はあるけど、やっぱり好きな映画です。by K. Hattori



 ロードショーでも観ていたので、これが二度目の鑑賞。映画の中で竹中直人が「社交ダンスやってること内緒ですよ。みんなから変態だと思われるから」と言ってますが、確かにこの映画が公開された時はそんな雰囲気でしたよね。ところが他ならぬこの映画がきっかけで社交ダンスブームが起こり、ダンスに対する社会のイメージが一変してしまった。結果として、今となっては竹中のこの台詞がちょっと古臭く感じられますね。映画がヒットしたことで、その映画の中の台詞が陳腐化するなんて、ちょっと不思議な現象だと思います。

 『お日柄もよくご愁傷さま』を観るついでにこの映画も観たのは、とりもなおさず、この映画が僕の好きな映画だからです。僕は去年観た邦画の中で、ベスト作品にしてますしね。ただ、この映画がパーフェクトな作品かというとそういうわけでもなくて、結構冗長な部分や余分なエピソードもあると思うんです。

 例えば渡辺えり子がお弁当を運ぶのを主人公が目撃するシーンは、はたして必要だったんだろうか。渡辺の生活の一端を観客が事前に知らされていることで、ダンス教室で彼女と竹中直人が怒鳴り合うシーンや、田口浩正をけちょんけちょんにやっつけて泣かせてしまう場面が弱くなってないだろうか。観客にとっても渡辺えり子がすごく嫌なおばさんに見えていればこそ、彼女が過労で倒れて以降、病室に娘が現れて「じつは……」というシーンが生きてくる感じもするんだけどな。

 逆に最初に観た時は甘ったるいだけだと思っていたシーンが、じつはすごく重要だったと気づいたところもあります。ダンスを教えてくれと言う妻と口論した主人公が、娘にせがまれて自宅の小さな庭で妻と踊るシーンはその代表例。娘が見守るなかで躍り始めた二人が、ダンスを通して再び夫婦の絆や信頼感を取り戻して行く大切な場面です。この場面では特に、原日出子扮する妻の夫に対する気持ちが伝わってきます。おぼつかないステップを踏みながら、夫の腕につかまる原の指先にぎゅっと力が入るところが、さりげないけれどしっかり描かれてます。彼女はやっぱり夫を愛しているし、そんな妻を夫も全身で受け止めようとしています。

 ただこうしたキーになる場面の描写が、どれもすごく弱いんですよね。ダンス教室帰りに男たちが居酒屋で身の上話をする場面や、会社での役所広司とと竹中直人の芝居など、台詞で説明している場面はすごくなめらかなのに、台詞のない場面になるとどうもよくわからなくなってしまう。上品すぎるのかなぁ。もっとどぎつい演出をしてもいいような気がする場面がいくつもありました。逆にダンス教室の場面で、ダンスの種類やステップを説明する場面などは、全部台詞で説明しているのにすごく自然でうまいですよね。

 それでもやっぱり、最後のダンスパーティーの場面で、スポットライトに照らされた草刈民代が「Shall we Dance?」と言うと、それですべて許しちゃうんだけどさ。


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