お日柄もよく ご愁傷さま

1997/02/23 並木座
結婚式、葬式、娘の恋人、会社の人員整理、娘婿の浮気、出産。
現代核家族の姿をリアルに描いた傑作コメディ。by K. Hattori



 久しぶりにきちんとした日本映画を観た気分。さして長くもない時間の中に、現代日本の家族が抱えるありとあらゆる要素をぶち込み、それを見事に消化させている。冠婚葬祭を通して家族を描くというのは、映画では常道手段だし、少し前には伊丹十三が『お葬式』という映画も作っている。父親の死から物語が始まるところから、僕は一瞬その二番煎じではとも思ったんですが、観て行くとこれが大間違い。お葬式が出てくるといっても、僕はむしろ小津安二郎の『小早川家の秋』のような端正さを感じました。これだけ騒々しい話題を山ほど詰め込んで、ちっともうるさくなってないのは、監督・和泉聖治の力でしょう。脚本は布勢博一。

 主演の橋爪功以下、出演者はテレビでも馴染みの顔ばかり。内容がホームドラマとあって、小さくまとまると全体がテレビ的なチマチマした映画になってしまいそうな素材です。しかしこの映画はストーリーの振幅の大きさと演出の奥深さで、全体をしっかりと映画にしている。知人の結婚式に仲人として出席する朝に、よりにもよって父親が死ぬという大惨事を、日常生活の細かな描写を積み上げることで難なく乗り切っているのは見事。この後も事件が山盛りで、5分に1度はクスクス笑えます。

 日常生活の中にある些細な出来事の滑稽さを、きちんと脚本の中に取り入れ、しかもそれがちゃんと笑いに結びついているのだからこれは偉い。映画の中では誰も奇矯な振る舞いなんてしないんですけど、それでもたっぷりと笑える。結婚式の場面で、清水ミチコ扮する新婦の恩師が何をとち狂ったか突然「喝采」を歌い始め、その場違いさに気づかないまま延々歌い続けるというシーンなど、もうおかしくておかしくて腹がよじれそうだった。ここでこの曲を歌わせるというアイディアだけでも、ポイントはずいぶんと高いぞ。抜群のコメディセンス。

 一方で要所要所に泣かせどころを按配よく配置する周到さも心憎い。スクラップブックのエピソードもよかったけど、父親が息子に宛てた手紙の場面は思わず涙が出た。父親と母親の青春時代のエピソードが、人間の営みの循環というものをよく表現していたと思う。

 三世代同居の家族が、祖父の死、娘の結婚と独立などによって、一気に解体して行く物語です。しかし、その印象は決して暗くない。むしろ家族の解体を、肯定的に明るく描いているような気さえする。ここには解体を経て、家族が別の部分で絆を深めて行く様子や、残された夫婦がまた新しい関係を築き上げて行こうとする様子も描かれています。戦後の小津安二郎が描きつづけた家族像を推し進め、さらにその次を描こうとしているのです。核家族という社会システムが、すっかり受け入れられ、成熟した証拠でしょうか。

 核家族の解体と再生のくり返しで、今の僕たちの生活は出来上がっているのですね。この映画に出てくる家族はいろいろな問題を抱えていますが、それでも一種の理想像になっているのだと思います。


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