マーズ・アタック!

1997/02/13 スパイラル・ホール
(カロヤンタイム・スーパープレビュー)
結局これってSFじゃなくて特撮映画なんだよね。見世物映画です。
特撮映画の持つイカガワシサがよく再現されてます。by K. Hattori



 試写会の段階で同じ映画を2度観るなどという、ほとんど素人にあるまじき行為を犯してますが、それに値する映画です。2度観てようやくわかったんですが、この映画でティム・バートンがやろうとしているのは、特撮映画の再現だったんですね。内容は50年代風のB級SF映画をなぞってますが、見せている内容は決して「SF」指向じゃない。そこが『インデペンデンス・デイ』とは大きく違うところなんだ。『ID4』は一生懸命理屈をつけて、「50年代のSF映画」を今によみがえらせようとしていた。『マーズ・アタック!』は必死になって、「50年代の特撮映画」を再現しようとしている。同じように見えて、両者は全然違うものです。

 特撮映画は見世物としての特撮そのものが売りですから、ドラマ部分はどうしても薄くなる。『マーズ・アタック!』は個々のエピソードごとに豪華な俳優と緩急つけた演出でそれなりに見せてますけど、内容はまるでデタラメだしクダラナイ話です。これはもう、最初からそうしたデタラメさを狙った確信犯。人物がリアルさを廃して誇張を極めているのも、「最初から人間ドラマになんて興味ないもんね」という開き直りです。

 それが正解だとわかってはいても、人間なかなかここまで開き直れるものではない。あのスピルバーグでさえ、『ジュラシック・パーク』で完全には開き直れなかった。中途半端に臭い人間ドラマが描かれていて、あんなもんビデオだったら早回しですよね。バートンは『マーズ・アタック!』で人間ドラマをかなぐり捨て、それを完全にマンガにすることで物語を乗り切る。すごい力技ですが、バートンの演出はそれを感じさせないのだから凄い。

 監督としては、火星人を『ナイトメア・ビフォア・ザ・クリスマス』や『ジャイアント・ピーチ』と同じように、ストップモーションアニメの手法で描きたかったそうですが、映画会社から泣きが入って、やむなくCGアニメにしたんだそうな。う〜む、そうだろうなぁ。特撮といえば、やっぱりストップモーションアニメだよなぁ。以前サム・ライミが『キャプテン・スーパーマーケット』で骸骨の大軍を出してましたけど、あれはやっぱり「特撮映画」の臭いがぷんぷんしたもんです。ただしストップモーションアニメは、猛烈に金と労力を食うんですね。『マーズ・アタック!』の火星人はCGですが、ちゃんとストップモーションアニメ風に動きます。

 オープニングタイトルのUFO大量出現・大編隊飛行は素晴らしい出来栄え。ダニー・エルフマンの音楽に合わせて、真っ赤な火星の表面から湧き出たUFOを、いろんな角度から見せる。ただそれだけなのに、すごく気持ちのいい絵になってます。こういうのが、やっぱりセンスなんだと思う。UFOなんて、でかけりゃいいってもんじゃないんだよ。

 数々の小技が小気味よい印象を残す映画ですが、その分だけ映画が小さくまとまっている印象が残る。この規模の映画をこじんまり見せてしまうのは、バートンの才能です。


ホームページ
ホームページへ