ザ・クラフト

1996/12/22 東劇
『オズ』でデビューしたファイルザ・バルクが魔法使いになる。
毛色のかわった青春ドラマとしてもよくできてる。by K. Hattori



 ファイルザ・バルク目当てで観た映画だけど、いやぁ面白かった。アメリカ版『エコエコアザラク』みたいな学園ホラーを予想していたんだけど、アメリカ映画はやっぱり派手だね。お金がかかっている分、世界も広がっているし、特撮場面も多い。特撮の質自体は『エコエコアザラク』も負けてないと思いますけど、特撮じゃない部分で差がつきます。例えばあの蛇やゴキブリの大群。

 高校生の少女たちが持ついろんな悩みや恨みが、魔法というパワーを得たことで暴走気味に拡大されてゆく。4人の少女のキャラクターがうまく描き分けられているのは脚本の力もあるけど、服装やメイク、美術にいたるまで徹底した演出の力によるもの。

 物語の中心になるのは不思議な能力を持つ転校生サラと、少女たちのリーダー格であるナンシーのふたり。最終的にサラが正義の味方、ナンシーは魔法を自分の欲望のためだけに悪用しようとする敵役になるんだけど、キャラクターの魅力という意味ではファイルザ・バルク演じるナンシーに軍配が上がる。『エコエコアザラク』の吉野公佳と菅野美穂の関係を思い出さずにいられませんなぁ。子役からキャリアを重ねているバルクに比べ、サラ役のロビン・タニーはちょっと貫禄不足でしたね。

 魔法の力をひとつひとつ身につけてゆく彼女たちの姿がじつに丁寧に描かれていて、何も疑うことなくそこにのめり込んでゆく4人の様子に違和感がありません。最初は単なる「魔術ごっこ」だったものが、実際のパワーを目の当たりにして、どんどん本気になり、調子に乗ってゆく。自分を振った男の子を振り向かせるとか、意地悪している女の子に復讐するとか、身体の傷を消すとか、そうしたささやかな願いがひとつひとつかなってゆく場面はスリリング。ただひとり最後まで願いのかなわなかったナンシーが、義父の死で保険金を手に入れるくだりは迫力があった。ネタとしては「猿の手」などにもある古典的なものですけどね。

 脚本には無駄なところ、意味のないところも数あって、それが小さな傷になっている。まず、映画の序盤でサラを脅かし、車に轢かれて死んでしまうヘビを持った男は不要。少なくとも、事前にサラの家を訪れる部分はいらないし、「あんたの夢を見た云々」という台詞もいりません。単に「死を願ったら本当になった」だけでいいような気がする。第2に魔術グッズを販売するリリオという女性の扱いが中途半端。店の奥にある秘密の魔法陣も、さんざんもったいぶって登場した途端に用なしでは気の毒。リリオ本人の魔法使いとしての能力も未知数で、なんで彼女があんなに偉そうにしているのかわからん。

 ナンシーが巨大な力を身につけ、それに溺れてゆく様子が秀逸。水の上を歩くシーンもゾクゾクしたし、海岸にサメが打ち上げられているのを見て「贈り物だ」と狂喜する様子も恐いぐらい。最後の魔術合戦がややパタン通りだったのが残念だったけど、最後のオチは面白かった。これも『シャドー』と同じなんだけどね。


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