シークレットワルツ

1996/12/19 シネマ・カリテ3
血のつながらない姉弟とヤクザたちの不思議な生活とその破綻。
ツイ・ハークの原作を野火明が映画化。by K. Hattori



 『弾丸ランナー』でチンピラヤクザの痛快な走りっぷりを見せた堤真一が、同じヤクザでも、今度はかっこいい殺し屋を演じているのが見たくて劇場に行った。予想通りものすごく格好よかったんだけど、この映画の堤は脇役であるうえ、人物造形もステレオタイプであまり感心しなかった。堤が属するヤクザ組織の組長が佐藤允、兄気分が高田純次とクセ者ぞろいで、これでは堤が浮かび上がってくるきっかけはない。

 石堂夏央と伊崎充則が演ずる、血のつながらない姉弟の物語です。オールナイト上映の映画館から明け方の街に出てきた二人が、道端で泥酔しているサラリーマンの財布を失敬する同入部のエピソードで、二人の暮らしぶりが即座にわかってしまう。逃げる二人を追うカメラがコマ伸ばしになるあたりはウォン・カーウァイ映画の影響かもしれないけど、非日常的な生活をしている二人を象徴的に描いていてなかなかファンタジックです。ちなみに、この映画の原作は香港映画の巨匠ツイ・ハーク。

 もともと根無し草な生活をしていた二人が、ヤクザ達と関わりを持ったとしても違和感がない。堤のぶっきらぼうな態度とは対照的な高田純次の軽さが、このくだりに説得力を与えている。その親分が佐藤允というのも、抜群のキャスティング。高田純次はおよそヤクザらしからぬヤクザなのだが、その親分が佐藤だと「こういう古文がいても不思議じゃない」という感じにみえてくる。この二人のただ者ではない雰囲気は、映画の中盤を完全に支配してしまう。

 前半で見せていた飄々としたキャラクターが面白かっただけに、血みどろの内部分裂に巻き取られて高田が変貌してゆくと、映画はもう面白くなくなってしまう。佐藤が最後まで貫禄を見せていたのに比べると、高田はあまりのも無様だ。彼がなぜ薬におぼれ、なぜ無謀な行動へと流されてゆくのかという説明が、もう少し欲しい。

 映画の中心になるのは、血のつながらない姉と、彼女に密かに想いを寄せる弟の物語。弟を好演した伊崎充則は、黒澤映画『夢』『八月の狂詩曲(ラプソディー)』などにも出演したかつての天才子役。今回は役の年齢が17歳と聞くと、「なんだか歳とっちまったなぁ」と感じてしまう。中途半端な年齢で、本人もどんな役をやればいいのか迷うところがあるんでしょうが、そうしたどっちつかずな中途半端さが、この映画の役柄には合っているように思えた。ダブダブのスーツを着て無理して大人ぶっているようなところとか、悪ガキぶって見せているけど変に従順なところなどは、現在の伊崎でなければ演じられないキャラクターでしょう。

 映画のタイトルは、佐藤允演ずる組長の「恋をするとワルツが聞こえる」という台詞からとられたもの。劇中に流れる音楽も、クラシックのワルツばかり。ラストシーンで海に向かって走る姉弟の姿が小さくなっるエンディングは、とても清々しく感じられた。石堂夏央が男たちを翻弄する少女を熱演。気になる女優です。


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