ムーンライト&ヴァレンチノ

1996/12/16 銀座シネパトス3
女性4人の家族愛や友情を描いた良質のホームドラマ。
ベテラン女優たちの息のあった芝居は心地よい。by K. Hattori



 突然夫を事故で失った主人公と、彼女を励まし支える家族や友人の姿を描くホームドラマ。主人公レベッカに『34丁目の奇跡』『フリント・ストーン』のエリザベス・パーキンス。その妹ルーシーに『セブン』でブラッド・ピットの妻を演じたグウィネス・パルトロウ。ふたりの継母アルバータにはキャスリン・ターナー。レベッカの親友シルヴィにはウーピー・ゴールドバーグがそれぞれ扮している。音楽ファンにはジョン・ボン・ジョヴィの登場もうれしいかもしれません。

 中心になる4人の女性たちは誰もが魅力的なのですが、僕は特にアルバータに注目した。このキャラクターは、演じたキャスリン・ターナーという女優の個性なしには成り立たないものでしょう。ターナーは体格も立派だし、顔も迫力があるし、女性でありながらなかなかに押し出しの強い役者です。演じるキャラクターを一言で言い表せば、「押し付けがましい」と表現すべきでしょう。自分でこうと思った目標に向かって一目散に突進する行動力。自分が正しいと信じて疑わない自信とプライド。そうしたキャラクターを逆手にとって、ブラックコメディに仕立てたのが『シリアル・ママ』という映画でした。

 『ムーンライト&ヴァレンチノ』でターナーが演じているのは、彼女の持つ「押し付けがましさ」がよい方向に作用している例です。主人公たち姉妹の父親と既に離婚しているにもかかわらず、家族の一員であるかのように姉妹のためにつくす継母。そこには何の遠慮もない。自分が正しいと思うことを、その通りに実行する強い女性です。でもその強さの下には、彼女の弱い部分も隠されている。妹娘のルーシーはそれに気がついていて、彼女に反発し非難する。二人が最後に和解する場面が、この映画のクライマックスになります。

 夫を失った女性が立ち直ってゆくという地味な話に彩りを与えているのが、ルーシーとシルヴィ。シルヴィは「よき友人」という部分からあまり出ていないと思うのですが、ルーシーというキャラクターは面白い。やせっぽちで、いつも黒い服を着て、煙草をふかしている、いまだ処女のルーシー。彼女にボーイフレンドができるんですが、自分の身体に自信がなくて彼の前で裸になれない。まず姉に裸を見てもらって正直な批評をしてもらわねば、というエピソードは面白かった。この後、初体験の時の心得を姉に伝授してもらう場面も、穏やかな笑いを誘います。「目は開けておくべきか否か」「うめき声はいつどのタイミングで出すべきか」など、ヴァージンの女性の疑問の種は尽きないのです。

 この映画の原作と脚本はエレン・サイモン。有名な劇作家ニール・サイモンの娘で、彼女の実体験をもとにした物語だそうです。葬式の場面に出てきた父親は、ニール・サイモンだったんですね。継母アルバータのモデルはマーシャ・メイスン。『グッバイ・ガール』が有名ですが、最近だと『ニック・オブ・タイム』で暗殺されそうになった知事を演じた女優さん。本物も迫力ありそう。


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