闇に抱かれて

1996/11/03 銀座シネパトス1
海外取材中のジャーナリストが現地の警察に拉致され拷問される。
ラウル・ジュリア正真正銘の遺作は社会派だった。by K. Hattori



 拷問が人間に与える心の傷を描いたTVムービー。主演はこれが遺作となったラウル・ジュリアと、撮り方次第で美人にもブスにでもなるローラ・ダーン。ラウル・ジュリアの遺作は『ストリートファイター』だとばかり思っていたんですが、IMDbによれば、その後2本ほどテレビの仕事があったみたいです。この映画はその内の1本。IMDbの出演作リストの筆頭に上げられている、つまり出演最新作、つまり正真正銘ラウル・ジュリアの遺作になったのがこの映画みたいです。

 宣伝コピーが「拉致され、凌辱されつづけた女」という、かなり扇情的なものだったんですが、これはいささか看板に偽りありです。すっかりだまされました。物語の主な舞台になっているのは、拷問から生き延びた人々の心の傷を癒す療養施設。世界中から人が集まって来るこの施設の院長もまた、ナチスに拷問された経験を持つ女性です。主人公のローラ・ダーンはジャーナリストとして、同僚であり恋人でもあったカメラマンと共に軍事政権下の民主主義運動を取材中、憲兵に拉致監禁されて恋人を失うという過去を持っていた。

 監禁中レイプされたかとたずねられたダーンは、多くの男たちに押さえつけられ悲鳴を上げた記憶が甦るが、一瞬躊躇した後「それはない」と答える。拷問経験者である他の患者たちは疑り深そうな目でダーンを見つめる。拷問の中で女がレイプされないはずはない。お前は嘘をついていると言わんばかりの反応です。

 宣伝文句に「凌辱されつづけた」と書いてあるからではありませんが、実際に密室中の拷問では、多くの女性が日常的にレイプされるか性的な虐待を受けています。先日亡くなった沢村貞子さんは自伝の中で、左翼運動に参加していた若い頃、警察で取り調べ中に拷問を受けて失神し、気がついたときには一糸まとわぬ姿だったと告白しています。ミュージカル映画『サラフィナ』では、主人公の少女が局部に電極を差し込まれるという拷問が登場しました。男は殺される、女は犯されるというのが、拷問業界万国共通の常識なのです。

 「レイプされなかった」というローラ・ダーンの言葉は、結局本当だったというのがオチで、なんだかガッカリなんですが、これはTV放送を前提とした映画だからしょうがないのかなぁ。だったら前半にあった、彼女のオナニーシーンはなんで平気なんだろう。わからん。宣伝チラシでは「長く狂った監禁生活」なんて書いてあるけど、実際は監禁3日か4日目に、目隠しされたままプールに突き落とされただけってのが真相。彼女の告白には同情しますが、すっかり拍子抜けしてしまいました。

 原題は「Down Came a Blackbird」ですが、ラウル・ジュリア演ずる大学教授の名前トマス・ラミレズから、「Ramirez」というタイトルで放送されたようです。この教授の過去の物語というのがなかなか曲者で、実際にはこちらが本筋と言ってもいい。最後のどんでん返しはびっくりしたけど、見せ方が直截すぎて芸がないぞ。

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