スナイパー/狙撃

1996/10/16 東劇
ラッセル・マルケイの映像美を期待したのに見事に不発。
アクションの冴えも今ひとつ。by K. Hattori



 僕はラッセル・マルケイという監督が好きなので、それにつられて観に行きました。と言っても僕は『ハイランダー2』『リコシェ』『シャドー』あたりからのファンだから、つい最近この監督に注目し始めたってわけです。マルケイ監督の魅力は「荒唐無稽な話の展開」と「必然性のないスタイリッシュなアクション」にある。『ハイランダー2』の馬鹿馬鹿しさはそのまま魅力だし、『リコシェ』でジョン・リスゴーが刑務所の中で決闘する場面のアホらしさや、必要以上に派手なラストの爆発シーンは脳裏に焼き付いているし、大傑作『シャドー』で見せてくれたアレック・ボールドウィンとジョン・ローンの対決は素晴らしいものだった。94年の『シャドー』以降新作がなくてやきもきさせられたんだけど、そこに登場したのがこの『スナイパー/狙撃』という映画。ドルフ・ラングレン演ずる凄腕の狙撃手を主人公にしたアクション作品だ。

 さんざん期待していただけに、このできには大いに不満。何より、この映画には笑える場面がないではないか。物語の飛躍を必要以上に大げさな絵作りで乗り切ってしまう、いつもの強引なマルケイ演出がほとんど見られない。映像は相変わらずスタイリッシュで、工事中のビルの中でラングレンの姿が雷光に照らされる場面などはゾクゾクするくらい。でもそうした絵も、舞台が限定されているからだんだん見飽きて来るんだよね。結局似たような絵の連続になって、新鮮さがなくなってくる。そもそも、神業のような狙撃場面がひとつもないじゃないか。

 登場人物が極端に少なくて、ラングレン演ずるシューターと、彼を監視するスポッター、狙撃場所のビルの警備員がふたりの合わせて4人。物語は主人公シューターと監視役の女性スポッターの、現在と過去を交互に見せながら進行して行く。夜の闇の中に雨に打たれながらそびえ立つ建設途中で工事が中断した骸骨のようなビルの寒々しさと、太陽が照り付ける埃っぽい町で繰り広げられる血と硝煙の匂いに満ちた市街戦の対比は意図した物だろうが、これがあまりうまく行っているとは思えない。ここでテーマにならなければならないのは、無線で非常な指示を与えて来るスーパーバイザーが何者かという点だろうが、演出が散漫で物語がその一点に絞られない。

 主人公が戦争から帰っても殺しの仕事を続けたのはなぜか、スポッターがこの稼業に足を踏み入れたのはどんな理由からか、彼らが属しているファミリーの組織構成はどうなっているのか、どこから殺しの依頼を受けてどの程度の報酬を受けているのか。こうした物語の背景が一切合切不問にされているのだが、それならば映画に描かれている「今」をよりリアルに切実に描かなければならなかったはずだ。この映画ではそうした「今」をイメージで流してしまった。

 狙撃手を監視するスポッターというアイディアは面白いのに、そこから物語がふくらんでゆかない。スポッター役のジーナ・ベルマンが素敵だっただけに残念だ。


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