イレイザー

1996/08/29 丸の内ルーブル
シュワルツェネッガー演じる連邦保安官が女性証人を徹底的に守り抜く。
新鮮味も新発見もない使い古された映画作法。by K. Hattori


 監督のチャールズ・ラッセルはジム・キャリーの『マスク』を撮った人。う〜ん、でも僕、あまり『マスク』には乗れなかったんだよなぁ。そのせいかどうか、僕はこのシュワルツェネッガーの新作にも「イマイチ」という評価を下してしまう。演出のテンポがあまりよくないんだよなぁ。確かにパラシュート無しで飛行機から飛び降りる場面と、巨大ワニと格闘する場面は迫力がある。でもそれだけでしょ、見せ場が。これらのシーンはすべて映画の中盤に用意されていますから、それ以降見るべきアクション場面がないのは辛いよ。

 見せ場と言われている墜落場面にしたって、例えばキャスリン・ビグローの『ハートブルー』が持っていた迫力には劣るし、ワニだってCGだってことがバレバレでしょ。ワニはせめてもう少し長い時間見せてほしかったよなぁ。あのあたりは取り囲む敵とワニとシュワとで、かなり複雑な立ち回りが組み立てられたはずなんだ。パラシュートの場面は主人公がひとりで演じる活劇ですけど、映画の中ではこのワニの場面が一番人数が入り乱れ、接近している場所なんだよね。アクション映画としてはおいしい場面のはずなのに、ラッセル監督ってなんだか演出が淡白なんだよね。

 この映画が物足りなくなっている原因は、物語や格闘場面の中でアーノルド・シュワルツェネッガーというスター俳優の個性がほとんど生かされていないことにある。要するにこの役柄をシュワルツェネッガーが演じなければならない必然性が、どこにも感じられないのだ。この役ならジャン=クロード・ヴァン・ダムでも、ドルフ・ラングレンでも、ヴァル・キルマーでも演じられるよ。

 シュワルツェネッガーは『コナン』『ターミネーター』『コマンドー』『プレデター』『レッド・ブル』『トータル・リコール』『ターミネーター2』『ラスト・アクション・ヒーロー』『トゥルーライズ』と、どれもこれも彼が演じなければ成り立たない役柄を、自身の肉体を使って演じてきた。シュワルツェネッガーはあの鍛え上げた筋肉こそが最高の個性なんだから、それを前面に押し出した物語なしに輝くことはできないのだ。

 『イレイザー』はアクション映画としての水準はクリアしている。映画としての面白さやバランスで言えば、『トータル・リコール』や『ラスト・アクション・ヒーロー』の何倍も面白いしよくできているだろう。だがこの映画はシュワツェネッガー主演のスター映画として、決定的に魅力不足なのだ。少なくとも『トータル・リコール』や『ラスト・アクション・ヒーロー』の中では、シュワルツェネッガーの個性が生きている。

 頼りにしていた上司が裏切って主人公が孤立無援に……、という展開は『ブロークン・アロー』や『ミッション・インポッシブル』と同じであまり芸がない。明確な敵がいない時代だからこそ、脚本家の腕が問われるね。考えてみればソ連との冷戦というのは、アクション映画の筋書きにずいぶんと貢献していたなぁ。


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