ツイスター

1996/08/25 日劇プラザ
ゴジラを降板したヤン・デ・ボンが撮った竜巻ムービーの迫力映像に息を呑む。
デ・ボン監督は撮影監督出身だけに絵作りが上手い。by K. Hattori


 全編CGで作ったという竜巻の映像が呼び物の映画だが、それ以外のところにも工夫があってなかなか見ごたえのある映画になっている。専門家集団の中にひとりだけ素人を紛れ込ませ、それに自分たちのしていることを解説して聞かせるのは上手い方法だし、それによって一般的な人間が感じる竜巻のエネルギーに対する恐怖も描かれる。これは脚本の工夫。それより僕が感心したのは、竜巻を追いかける観測者たちが、カーレースさながらの猛スピードで未舗装の道を突っ走る場面の躍動感。空撮やクレーンなど、カメラを移動させながら撮られたこれらの絵は、竜巻の映像と同じかそれ以上に迫力満点。竜巻はCGで作り物だけど、この自動車たちは本物の迫力。

 映画はほぼ丸1日の間に繰り広げられる大自然のドラマと、それに翻弄される人間たちの姿を描いている。これでもかこれでもかと迫力ある竜巻映像を映し出す方便として、「竜巻の当たり年」なるものが登場するが、それにしてもたった1日でこういくつも竜巻が発生するものなのかねぇ。規模の小さいものから、徐々に大きな竜巻が登場させるあたりは映画の常套句。食事の最中に竜巻の規模を表わすF値の話になり、牛が飛ばされるのはF3、F4なら納屋が飛ばされると語った後、「じゃぁF5は?」と問われて一同息を呑み、やがて「それは神の領域だ」と答えるあたりはパターンなんだけど、十分観客にF5に対する期待感を持たせるだけの効果はある。

 脚本にマイケル・クライトンの名があるが、彼が考えたのは恐らく竜巻観測機ドロシーのくだりだと思う。ドロシーは言うまでもなく映画『オズの魔法使』で竜巻に乗って魔法の国に飛ばされた女の子の名前。演じたのはジュディ・ガーランド。映画の中ではちゃんとドロシーの筐体にジュディの絵が描いてありました。

 『オズの魔法使』が出てくるから舞台はカンザスなのかと思ったら、映画の舞台はお隣のオクラホマ。登場人物のひとりがちゃんと『オクラホマ』のテーマ曲を歌っていました。そうそう、テレビでジュディ主演の映画『スタア誕生』を見ているシーンもありましたね。

 映画と言えばF4の大竜巻に巻き込まれるドライブインシアターで上映されていたのは、キューブリックの『シャイニング』。スクリーンが映し出された映像ごと粉々に飛び散るシーンは、絵作り優先で考え出された場面です。地鳴りがして建物も飛ばされ、あれだけ大騒ぎになっているんだから、現実的に考えれば映写装置が安定してスクリーンに映像を結び続けることは困難。それをあえてああいう絵にしたのは、現実がどうなるかより映画のなかのリアリズムを優先した結果でしょう。

 竜巻追跡を通じて離れていた夫婦が互いの心を通わせるようになり、最後は元のさやに戻ってハッピーエンド。まぁ確かに安易なものかもしれないけど、ヘレン・ハントとビル・パクストンの芝居は、人物の背景にある悲しさ苦しさ、竜巻観測に懸ける情熱、互いを思う優しさと愛情を十分に表現していたと思う。これはこれで満足。


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