アンカーウーマン

1996/06/28 日劇東宝
テレビ局を舞台にした今風『スタア誕生』。話は古くさいがしっかり見せる。
ミシェル・ファイファーとレッドフォードは二人ともはまり役。by K. Hattori


 ミシェル・ファイファーとロバート・レッドフォード主演の、テレビ局を舞台にした『スタア誕生』。監督は名作『フライド・グリーン・トマト』のジョン・アブネット。アブネット監督は前作『八月のメモワール』が意欲の空回りした凡作だっただけに心配したが、今回は平均以上のでき。要所要所で観客をうまい具合にホロリとさせることに成功しています。この調子で『フライド・グリーン・トマト』に匹敵する傑作を、また作ってほしいものです。

 テレビ局が舞台の映画と言えば、ホリー・ハンターとウィリアム・ハート主演の『ブロードキャスト・ニュース』という面白い映画があって、テレビ報道番組の内幕や報道倫理、演出とヤラセの問題など、テレビ局の舞台裏をかなり掘り下げた作りになっていました。それに比べると『アンカーウーマン』は、同じような問題を取り上げながらもそれらを物語の味付けに使っているだけですね。

 マイアミのローカルテレビ局に就職した主人公が、お天気キャスターを振り出しに、最後は全米ネットワークのアンカーを勤めるようになるまでを描くサクセスストーリー。その影には、彼女の才能を見いだし、彼女を守り、育て、愛し合った男の姿がある。それがウォーレン・ジャスティスこと、レッドフォード。一時は頂点をつかんだ男が、挫折してくすぶっていた時に出会った才能ある女に惹かれ、彼女を育てる内に恋に落ち、結婚してからはさらに落ちぶれ、最後は死んでしまうという筋立ては、そのまま『スタア誕生』ですよね。ラストシーンで舞台に上がったタリーが「私はウォーレン・ジャスティス夫人です」と宣言すれば、そのまま『スタア誕生』だったんだけどなぁ。ま、これはやり過ぎですね。

 と言うわけで、恋愛物語としては筋立てが古典的すぎて新味はないのですが、見どころも何カ所かあります。そのひとつは中盤の刑務所暴動シーン。事件が一段落して刑務所前からの中継を終えたファイファーを、レッドフォードが優しく抱きとめるところはよかった。一刻も早く彼の胸に飛び込んで行きたいファイファーだが、一晩中刑務所の中からの中継をしていた彼女は、彼のもとに走って行く体力が残っていない。はやる心を抑えて一歩一歩彼のもとに歩いて行くファイファーを、レッドフォードは途中まで迎えに行き、抱きしめる。

 もうひとつ忘れられないのは、ネットワーク局のパーティーで、テレビ報道を通じてファイファーがレッドフォードの死を知る場面。画面に映った元気な姿を見て「あ、大丈夫だわ」と思ったのもつかの間、一瞬にして彼が銃撃される場面になる。画面に映し出された遺体には、空港で彼女が手渡したブーツが映っている。彼女の手から落ちたコップが、床に落ちてカラリと安っぽい音をたてるのが悲しい。


ホームページ
ホームページへ