バロン

1996/06/22 早稲田松竹
全編すごーくお金がかかっている不必要に贅沢な映画。
ユマ・サーマンのヴィーナスには見とれてしまいます。by K. Hattori


 18世紀末。トルコ軍に包囲されたヨーロッパの小さな町では、舞台の上で「ほらふき男爵の冒険」が上演されている。町はトルコ軍の攻撃でズタズタに傷つき、劇場も穴だらけ、裏方スタッフは戦死して俳優たちが装置を動かす始末。そんなどん底のなかで、人々は娯楽を求めて劇場に集う。準備不足で進行もままならない芝居だが、それでも観客は食い入るように舞台を注視している。そこに現れ、大声を上げて舞台を中断させてしまった老人。彼こそ、この物語の主人公、本物のバロン・マンチューゼンなのである。

 最初の5分を観ただけで、この映画にどのぐらい金がかかっているかがわかる。精巧に作り込まれたスタジオセット、豪華な衣装、炸裂する爆薬、ミニチュアセット、ロケーション撮影、エキストラを動員したモブシーン、特殊撮影。荒唐無稽な男爵のお伽話を、そのまま実写映像にしてしまう大胆さ。次から次に巻き起こる冒険は、ただ数珠繋ぎになっているだけで途中で退屈してくるが、どのエピソードも手を抜かない正攻法の話作りには驚く。エピソードを3分の2に減らして、製作費を半分にしようという発想がこの映画には見られない。製作費は75億円だそうだ。テリー・ギリアムのやりたい放題。

 映画の中では、男爵が若い頃トルコの国王と賭けをして、宝物庫の財宝をそっくりせしめるエピソードが素晴らしい。自分自身と家来たちを信頼し切った、余裕しゃくしゃくの表情。男爵と家来たちのスピーディーなチームプレイ。千里眼の鉄砲名人が塀の上にひらりと飛び上がるシーンなんて、見ていてこれほどわくわくする場面はない。足かせ男の韋駄天走りもすごい。このエピソードには心身共に充実した男爵一行の、恐れを知らぬ大胆さと豪胆さ、それに実行力が現れていてよいのだ。これがあるから、この後のエピソードがより大きく見えるのだ。

 老人になったマンチョーゼン男爵は、町をトルコ軍の包囲から救うため、かつての家臣たちを呼び集める旅に出る。女たちの下着で作った気球に乗って城壁を飛び越えた男爵のお供は、ゴンドラに忍び込んだ劇団座長の娘。二人は月世界を訪ね、火山の国に不時着し、巨大な魚に飲み込まれながら仲間を見つけ、やがて元の町に戻ってくる。仲間が力を合わせてトルコ軍をやっつけるシーンは、老人パワー炸裂。復活したかつてのチームプレーが、兵士をなぎ倒し、象を蹴散らし、敵を粉砕する。

 単なるお伽話と見せかけておいて、中身はしっかり反戦映画になっているらしいなど、一筋縄では行かない。政治的策謀よりお伽話が勝利するという結末は、いかにもテリー・ギリアムらしいエンディング。政治的駆け引きに関係なく、暗殺の弾丸にも負けず、最後は人間の想像力が勝利を生み出すのだ。


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