リビング・イン・オブリビオン
悪夢の撮影日誌

1996/04/14 シネアミューズ
この映画ほどリアルに映画作りの舞台裏を描いたものがあっただろうか。
もの作りに携わる人間として同情を禁じ得ない。by K. Hattori


 『レザボア・ドッグス』のミスター・ピンクことスティーブ・ブシェミが主人公で、他はほとんどが無名の役者ばかりだと思っていたら、つい先日『コピーキャット』の中で撃ち殺されたばかりのダーモット・マルロニーが撮影監督の役で出演していた。マルロニーはメル・ギブソンを若くして少し面長にしたような苦みばしったいい男で、他にも『エンジェルス』『バッド・ガールズ』『アサシン』などに出演しているようだけれど、どれもあまり印象に残っていない。『バッド・ガールズ』なんて、どこの誰の役だかも覚えていないぞ。(IMDBによればジョシュ・マッコイ役とのことだけど、それ誰?)『キルトに綴る愛』にも出演しているようだけど、これは未見。僕は今回『コピーキャット』とこの映画でマルロニーを覚えましたから、次からはマークしておこう。たぶん、これから大きくなって行く俳優だと思います。

 この映画には『悪夢の撮影日誌』という副題がついていて、中身は低予算映画製作の現場で何が行われているかを、豊富なエピソードを挿入しながら赤裸々に描いたコメディ。普段はフィルムに映ることのない制作現場の実体を、どこまでが本物でどこからが作り事かわからないぐらいリアルに描いてみせる。ブシェミ演ずる監督が七転八倒しながら映画を撮って行く様子は涙ぐましいが、そうした涙ぐましい努力ほど観客をして涙が出るほどおかしがらせるものはない。

 次々と起こるトラブルにNGシーンが連発しても、目の下に隈を作りながら(ブシェミだからもともとだけど)必死に現場を掌握し続けようとする主人公。スタッフに気を配り、役者をおだててその気にさせ、自分自身を鼓舞しながら撮影は続く。しかしスタッフたちは必ずしも協力的じゃないし、プロフェッショナルでもない。役者は勝手に演技プランを変更。そのたびにNGフィルムは増えて行く。役者やスタッフの私生活のトラブルが、現場できな臭いにおいをプンプン発生させて撮影は混乱。

 主演男優チャド・パロミノはどう見たってブラッド・ピットがモデルじゃないかと思わせるんだけど、彼が現場で誰彼構わず女をくどきまくり、どう見ても大根役者のくせに自分では大俳優気取りなのが最高におかしい。この映画の監督トム・ディチロって、前作であるデビュー作『ジョニー・スエード』をピット主演で撮っているんだよね。この映画が監督の経験を下敷きにしたのだとしたら、パロミノはピット以外にあり得ないじゃないか。

 ディチロは撮影監督出身だから、マルロニー演ずるウルフあたりが自身のモデルなのかも。だとしたらブシェミ演ずる監督ニックのモデルは、ジム・ジャームッシュあたりかな。詮索の種は尽きない。


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