美味しんぼ

1996/04/14 丸の内松竹
人気マンガの映画化。料理勝負が映えないのが残念。
僕にとってはご近所映画。シリーズ化してほしい。by K. Hattori


 原作は今もスピリッツで連載中の人気漫画。今回の映画化では主人公・山岡士郎を佐藤浩市、敵対する実父でもある美食家・海原雄山を佐藤の父である三國連太郎が演じて話題になった。劇中の父子を実際の父子が演ずるという趣向だ。他のキャストは、文化部の新人記者で山岡と「究極のメニュー」作りの担当コンビを組む栗田ゆう子に羽田美智子。人物配置はほとんど原作通りだが、美食倶楽部先代板長の娘で山岡を「お兄ちゃん」と慕う少女役に、映画版『高校教師』の遠山景織子が扮しているのが映画独自の創作か。

 物語は前半3分の1まではだいたい原作通り。東西新聞が創業百年の記念として「究極のメニュー」作りを企画し、その担当者を決めるために「豆腐と水」の味見を行う。見事全問正解したのが新人の栗田と、文化部古参のぐうたら記者山岡。この後、山岡が料亭の吸物を作りなおしたり、銀座裏のホームレスたちから料理屋の情報を仕入れたり、究極対至高の料理対決が幾度か行われたりと、原作読者にはおなじみのエピソードが織り込まれて行く。

 映画では大原社主が最初から雄山と山岡の確執を知っており、メニュー作りを通して両者を和解させようとすることになっている点が原作と大きく異なる。映画のテーマは最初から父と子がいかにして過去のわだかまりを捨て、理解し合えるかという点に向かっており、その分だけ料理対決などのエピソードは弱くなっているような気がした。

 究極対至高の対決は物語の中では山場になるべき重要なエピソードだと思うが、魚勝負も中華勝負も平板でただ物語の筋を追うだけになってしまっている。「料理の鉄人」がテレビで毎週放映されている時代に、これはいかにも物足りない。料理対決が盛り上がらないから、その裏側で行われた「煮豆勝負」も盛り上がりに欠ける。雄山がぽつりと負けたとつぶやく場面も、父子和解のきっかけとしては弱い。

 遠山景織子のエピソードをわざわざつけ加えたわりには、彼女の活躍が少なかったのは残念。僕はてっきり、山岡を間にはさんで栗田ゆう子と三角関係になるのだと思っていた。ただ単に煮豆をねだるだけなんて、あのポジションに人物を配置しながらもったいなさ過ぎる。まぁもったいない人物は他にもたくさんいて、例えば山岡の親戚を演じた樹木希林は芝居が空回り気味だし、田中邦衛や財津一郎ももう少し活躍の場所がほしかった。松竹の思惑通りこの映画がシリーズ化されれば、面白くなりそうな布陣です。

 三國演ずる雄山は北大路魯山人を意識したようで、原作以上に魅力的。この映画の魅力の半分は、三國雄山の存在感にある。三國は同じ松竹で『釣りバカ日誌』というシリーズも持っているけど、『美味しんぼ』シリーズ化に差し障らないのだろうか。


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