青いドレスの女

1996/03/14 有楽町スバル座
デンゼル・ワシントンがアルバイトの素人探偵を演じるハードボイルド。
主人公を助ける相棒マウスが面白いキャラクターだ。by K. Hattori


 主人公イージーを演じたデンゼル・ワシントンはハンサムな二枚目スターでありながら、スター俳優に付きもののシリーズ映画に縁がなかった役者。この映画の原作はこの後何作かシリーズ化されているようなので、ひょっとしたらワシントンも初めてシリーズ映画主役の座を射止めることができるかもしれません。ただ気になるのは、この映画が日本ではあまりヒットしているように見えない点。アメリカ本国ではどうだったのでしょうか。

 ワシントンがハードボイルド映画の主人公というのはちょっとミスキャストかとも思ったけど、映画を観ている内に、マイホーム主義で女の誘惑に弱くていざというときの度胸はあるというキャラクターは、案外彼の柄に合っているような気もしてきました。確かにワシントンはインテリ風で軍隊上がりの工場労働者には見えづらい点があり、最初の登場シーンでの印象は『ペリカン文書』の新聞記者とそう変わらない。しかし映画に登場するキャラクター像は、演ずる俳優が作って行くものです。ワシントンのイージーは物語の後半が終盤にさしかかるに連れてどんどん良くなってくるし、最後に彼が「私立探偵をやろうと思う」と告白するあたりでは、それが当然の結末のようにも思えてくるのです。ぜひとも続編を期待したい、新しいヒーローの誕生です。

 今回ヒロインを演じたのは『フラッシュ・ダンス』のジェニファー・ビールス。彼女は『フォー・ルームス』にも出演していましたが、なんだか終始猿ぐつわをはめられていたような芝居で容姿がよくわからなかった。今回改めてまじまじと見ると、なんとも妖しい美しさをたたえた女優になっていますね。大きな目がいつも潤んだように輝いて、男心を大いにそそります。

 彼女は基本的に線の細い女優で、存在感の弱いところがあるんでしょうね。だからこそ『フラッシュ・ダンス』という世界的な大ヒット作がありながら、その後スターダムをのし上がって行くことができなかった。でもそんな彼女のキャラクターが、この映画では大いにプラス方向に作用している。自分の中に流れている血の秘密を必至に隠そうとするミステリアスな女。愛する男のために、危ない橋をあえて渡ろうとするけなげな女。そして、事件の後ひっそりと消えて行く薄幸の女。青いドレスの女は本来弱い女です。その女が愛する男のために強くなるが、当の男はそんな彼女を受けとめることができないという悲劇。この役がビールスにはまると思い至ったキャスティング担当者は偉い。

 主人公イージーの幼なじみで、気は優しいが行動が短絡的で荒っぽいマウスというキャラクターが滅法面白い。この映画がシリーズ化してほしい一番の理由は、じつは彼にもう一度会いたいからなのです。


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