ザ・インターネット

1996/01/27 みゆき座
サンドラ・ブロック主演のハイテク・サスペンス。アイディアは今風だが、
追いかけアクション映画としては二流のでき。by K. Hattori


 マッキントッシュの病的なファンには嬉しい映画でしょう。何しろ登場す るパソコンのかなりの部分がマックになっていて、主人公は自宅でも旅先で も片時もマックを手放さない。もっともこんなことはほんの序の口で、この 映画が本当にマックファンを喜ばせるとすれば、それはこの映画が婉曲にア ンチ・マイクロソフトのメッセージを発している点にあるんじゃないだろう か。ひとつの営利企業で市場を独占してしまうのは危険だという、明確なメ ッセージがここには見られるものね。悪役はまるでビル・ゲイツばりの青年 実業家。

 そうした目で見ると、この映画の描写はまだまだ手ぬるい。ここはひとつ、 映画の中で「よい人たち」に分類される方々には全員マックを使っていただ き、そうでない「悪い人たち」あるいは「無自覚に悪人たちの餌食になって いる人たち」には全員PCパソコンを使っていただくなどの露骨な意地悪が 欲しかった。主人公の替え玉としてゲームメーカーに就職した女が、マック に向かって「こんなイマイマしいパソコン使えない」などと悪態をつき、そ の後あっけなく殺されてしまったりすれば拍手喝采だ。

 映画は古典的な巻き込まれ型ミステリーに、インターネットなどのハイテ ク関連エピソードをまぶしたもので、これといって新味はない。そもそも 『ザ・インターネット』なんて大上段に振りかぶるほどインターネットが活 躍してもいないのは疑問。主人公が事件に巻き込まれるきっかけになるソフ トウェアは宅急便で彼女の家に送られてくるし、物語自体はこのソフトを納 めたフロッピーの争奪戦が縦軸になっている。最後のメールとファイル転送 だって、最初から郵便か宅急便で事足りるじゃないか。こんなもの、ぜんぜ んネットワークしてないぞ!

 政府や調査機関の個人データが改竄されて、主人公の個人を特定する情報 が全くなくなってしまうというのはサスペンスの要なのだけれど、こんな馬 鹿な話があるはずがない。データの改竄はともかくとして、彼女と生身の交 際があったのが昔つき合っていた精神科医だけだなんてあり得ますかね。彼 女が20代半ばだとして、学校に通っていたのはいつの話でしょう。同級生 や先生はどうしたの。また、彼女は買い物に出ないんでしょうか。宅配ピザ 以下全てのものを通販に依存していたのかね。仮にそうだとしたら、そこま で彼女を出不精にさせていた原因は何でしょう。これら根本的な描写がお留 守になっているから、結局この映画は全部が嘘になっている。

 中に描かれているテクノロジーは細部に嘘はあるものの、映画としてはか なり本物らしく作ってある。それだけに数年であれよあれよと言う間に中身 が古びてしまう可能性もあるが、こういうものは旬なのでそれはそれでしょ うがない。


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