リトル・プリンセス

1996/01/09 東劇
この映画の魅力は美術が8割。スタッフのセンス溢れる仕事には頭が下がる。
ファンタジックな作り物の世界を堪能できる映画。by K. Hattoriby K. Hattori



 子供向きの映画だと思ってバカにするなよ。これは今年僕が観た映画の中ではナンバーワンのでき。監督のアルフォンソ・クアロンはハリウッドじゃ新人だけど、周りをベテランのスタッフがサポートして素晴らしい映画を作り上げた。話は最初から先が読めるし(原作が有名な小説なんだから、これは別に悪いことじゃない)、途中から結末が予想できてその範囲でしか物語が進まないんだけど、そんなこと跳ね飛ばすぐらい魅力的なディテールに魅惑されること請け合い。もしあなたが映画好きなら、騙されたと思って劇場に足を運ぶべきです。僕が悔やむのは、この映画をもっと早い時点で観ておくべきだったってこと。そうすりゃ周りの人じゅうにこの映画を推薦して回ったのに……。

 まず素晴らしいのは美術デザイン。巨大な石仏が水没して象が水浴びしているオープニングのセットも素晴らしいし、グリーンを基調にした寄宿学校のデザインも素晴らしい。でも一番素敵なのは、セーラが語るお姫さまと王子のお話。完全な作りものの世界なんだけど、極彩色のカラーリングとシュールレアリスティックな造形が心をつかんで放さない。お姫さまの衣装、王子の青い肌、無数の棘が行く手を阻む舞台装置、グロテスクな怪物。どれをとっても一級のできなのだ。

 この場面は映画の中でも特にCGが多用されている部分で、怪物も全てCGアニメでしょう。その怪物をいかにもCGっぽいヌメヌメした動きではなく、あえてハリー・ハウゼン風のギクシャクした動きにしてあるのが嬉しいんだな。思わず興奮。僕は延々この場面だけを観ていたいと思ったほどだけど、その気持ちがそのままセーラの話を聞く少女たちの気持ちにだぶって行く。

 あまり素晴らしい美術デザインなのでいったい誰の手によるものかと思いきや、美術のボー・ウェルチはティム・バートンの『ビートルジュース』『シザーハンズ』『バットマン・リターンズ』などでも腕を振るっていた人物。うーむ、さすがです。

 物語がインドから始まるあたりは『秘密の花園』を思い起こしたんですが、これって原作者が同じなんですね。僕は映画『秘密の花園』に若干の物足りなさを感じたんですが、この『リトル・プリンセス』には大満足しました。

 画面をよく観察すると、じつにコストパフォーマンスのよい撮影をしているんだよね。父親がテントの中で娘からの手紙を読む場面や、塹壕の中のシーンなど、たぶんカメラのアングルぎりぎりにセットが作られているのだと思う。塹壕の角から馬が走ってくる場面なんか、あれだけで空間がぐっと広がって感じられる。緻密な計算ぶりには大いに感服した。


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