戯夢人生

1995/12/09 早稲田松竹
日本の台湾統治時代の様子が台湾人の立場から語られている。
小さなエピソードのひとつひとつが印象に残る。by K. Hattori



 今年は邦画各社が戦後50年記念映画を作ったが、僕の観た範囲ではどれもぱっとしないできだった。この映画は少し前に製作された台湾映画だし、特に戦後○○年という意図で作られたものではないのだが、今この時期に観ることができたのは面白かった。描かれているのは日本統治下の台湾の様子。悪名高い日本のアジアに対する植民地支配の様子が、現地で暮らす被支配者の視線で語られているのが興味深い。良心的な日本人がこの映画から「残虐で巧妙狡猾なな日本の植民地搾取の様子」を読み取るのは勝手だが、僕がこの映画から読み取るのは、そんな政治的なメッセージではないのだ。大きくうねる時代の流れの中で、淡々と営まれて行く普通の人々の暮らしの力強さを感じさせられた。

 主人公の老人は台湾では有名な人形芝居の演者だそうで、この映画は彼の生きてきた人生を彼自身の口で語らせたもの。この人は以前「ニュース23」で筑紫哲也のインタビューに答えて、日本統治下の台湾がいかに素晴らしかったか、日本人たちがいかに立派な人たちだったかを弁じ、「日本が戦争に負けて台湾から出て行くとき、台湾の人たちは泣いて悲しんだ」とまで言っていた。筑紫哲也は朝日出身の良心的なジャーナリストだから、この発言の始末に苦慮していたのがありありとわかった。良心的な知識人にとって、戦争中の日本人は植民地で悪行三昧を重ねていないと困るんだろうなぁ。

 僕は新聞マスコミなどで戦前戦中の日本の悪口の数々が刷り込まれているせいか、この映画の中に出てくる日本人の姿は美化されているのではないかとさえ感じる。この映画に出てくる日本人の警官は、まるで『砂の器』の緒形拳みたいに人情深い人たちじゃないか。弁髪を切ることを命じに来たふたりの警官の内の年輩の方は、おそらくは自分の言葉が通じていないことを知りつつ、なるべく優しい口調で「今日はみんなで芝居でも観よう」と微笑みかける。彼は彼の立場の中で、誠実に現地に溶け込もうとしているんだよね。映画の後半で主人公と自宅で酒を酌み交わす日本人も印象的。主人公が彼に心酔していることが観客に伝わって来る。映画は日本が戦争に負ける場面で終わるが、所変わればその場所なりの8月15日があるんですね。これも発見だった。

 日本人の目から見るとどうしても中に登場する日本人の言動が気になってしまうのだが、それを離れてもこの映画にはゾクゾクするような魅力的なエピソードがごっそりと詰まっている。中でも主人公と娼妓とのエピソードは素晴らしかった。小さな部屋の中で演じられるタバコのやり取りは、なんとも言えずエロチックでした。


ホームページ
ホームページへ