バースデイプレゼント

1995/11/22 日劇東宝
日本ではこの路線を狙う監督が少ないから貴重なんだけど……。
作り手の意欲が作品の中に反映しきれていない。by K. Hattori



 武田鉄也が岸谷五朗の父親役で登場したのにはたまげた。鈴木保奈美は友情出演のちょい役程度だろうと思っていたら、あそこまでやってくれるとは思わなかった。結構うれしいんだよ、僕は。

 この監督の前作『ヒーロー・インタビュー』は、アメリカ映画によくあるしゃれたロマコメを撮ろうとして失敗した意欲的な習作だったが、今回の『バースデイプレゼント』もやはり同じようなセンを狙っていま一歩届かなかった残念賞映画だ。オープニングから中盤にかけては苦しいながらも何とか見せることができるのだが、終盤にはいると息切れしてプロットをただ映像に移し換えただけの味もそっけもない描写に終始する。アイディアがいちいち不発になるのも前作同様の欠点だろう。

 主演の岸谷五朗は『月はどっちに出ている』『東京デラックス』に続けて、お調子者でフラフラした男を演じさせれば今一番絵になる俳優だろう。対する和久井映見は誠実で一途な女の子を演じさせるとナンバーワンの女優で、二人のラブロマンスが一筋縄では行かないことはこのキャスティングだけでも想像がつこうというもの。和久井映見といえばつい最近俳優の萩原聖人と結婚したばかりだが、その萩原聖人は映画『マークスの山』で岸谷五朗演ずる殺し屋に狙われるという役どころだったことを思い出すと、映画ファンとしてこの三人の数奇な運命を笑わずにはいられないのである。

 僕はこの映画の岸谷五朗には幾分の感情移入をしたが、和久井映見には残念ながら魅力を感じなかった。岸谷の心の動きを情感たっぷりに描くほどには、和久井側の描き方が薄っぺらで表面的なのだ。むしろ、彼女の友人役である鈴木杏樹の方が魅力的に見えるほどだった。和久井映見本人に魅力がないわけでは当然ないし、彼女に演技力がないわけでもなかろう。彼女が過去のいくつかの主演映画で見せたはじけんばかりの魅力に比べると、今回の映画の彼女は精彩に欠ける。嘘だと思ったら『エンジェル/君の歌は僕の歌』や『虹の橋』をみてみるがいい。結局、今回の彼女の役柄は物語の上でまだまだ書き込み不足だし、演出も突っ込みが足りないのだ。

 しかしながら、僕はこの監督の意欲を大きく買う。この映画は『ヒーローインタビュー』に比べれば格段によくまとまっているし、演出も大胆になっている。前作に観られたオドオドしたところがない。豪華な出演人に負ぶさったり甘えたりするところも少なくなり、適度な観客サービスのレベルに押し止めてある。つまり、この監督は断然腕を上げたのだ。意欲ばかりが空回りしている前作とは変わり、今回は意欲の何割かが映画の中に結実しているはずだ。今から言ってもしょうがないかもしれないが、次回作にこそ大いに期待したい監督のひとりだ。


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