ブレイブハート

1995/11/03 スカラ座
メル・ギブソンの監督第2作は中世スコットランドを舞台にした壮大な史劇。
骨太のドラマに血液が沸騰しそうになるくらい興奮。by K. Hattori



 謀略と裏切り、父子の確執、恋と友情、そして戦争。壮大な歴史ドラマにたっぷりと酔うことができる映画だ。大がかりでダイナミックなスペクタクルを見せつける一方で芝居の方にも繊細な心配りが見られ、メリハリのきいた演出は観る者を画面の中にぐいぐいと引き込むこと請け合いだ。監督主演を兼ねたメル・ギブソンは、『リーサル・ウェッポン』シリーズや『マーベリック』で見せた大味なキャラクターとは裏腹に、演出面ではじつに繊細な神経の持ち主らしい。カットとカットのつなぎ方といい、ひとつひとつの絵作りといい、熟達した技を感じさせずにおかない。もっとも、この映画でも演技の方は幾分大味なところがなくはないが、これは演技力以前に彼の風貌によるところが大きいであろうから、あまりこの点については突っ込まない。

 映画の序盤で主人公がイングランドに最初に反旗を翻す場面は、じつに周到に話が組み立てられていて感心した。占領したスコットランドにイングランド人の領主を定着させるため、領主に花嫁の初夜権を与えるイングランド王。主人公ウォレスは恋人をイングランド人に奪われることを避けるため、森の中で秘密の結婚式を挙げる。しかし直後にイングランド兵が妻に乱暴しようとしたことから、ウォレスは兵士たちと衝突。妻は兵士に捕らえられ、逃げたウォレスをおびき出すために殺される。これがきっかけになってスコットランドで最初の反乱が起こるのだが、イングランド人守備隊を全滅させて勝ちどきを上げる仲間たちを後目に、妻の仇を討ったウォレスの目は深い悲しみに包まれている。

 イングランドに占領される屈辱的な生活を送りながらも、自らは平穏な日々を愛し戦いを好むことはなかったウィリアム・ウォレス。彼がイングランドに反抗を続ける根底には、常に失った妻に対する想いがあるのだ。処刑台上のウォレスが過激な拷問に音を上げず、最後に笑って死んでゆけるのも、抽象的な大義名分以上に妻に対する個人としての想いが行動の原動力になっていたからに他ならない。彼の遺志は、残る者たちに受け継がれる。

 物語は中盤以降、策謀と嫉妬と裏切りが渦巻く政治劇の様相を帯びはじめ、スコットランドの反乱という大きな動きの中で主人公の行動は脇に追いやられるが、主人公の力強いキャラクター造形は常に映画全体を支配して物語の中だるみを許さない。何度も繰り返される合戦シーンも、男たちの汗と血の臭いがぷんぷん漂ってくるような迫力だ。戦いになったら役に立つのは頭だと言うウォレスだけに、戦闘は数や装備の劣勢を跳ね返す創意工夫にあふれている。こうした戦略をきちんと映像で納得できる絵にしてみせるのは案外難しいのだが、この映画では見事にそれに成功している。


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