GONIN

1995/10/02 松竹セントラル2
バブルが弾けて借金で首の回らなくなった男たちがヤクザの事務所を襲撃。
ビートたけし演ずる殺し屋がすんげ〜存在感を見せる。by K. Hattori



 行き場を失った5人の男たちが、やくざ相手に起死回生の大博打。まんまと大金を手にした5人。しかしそこはこうした犯罪映画の常で、やくざたちの反撃が猛然と始まります。傷つき、倒れて行く男たち。定石通りの展開です。このプロットは犯罪映画の黄金率のようなもので、最近の映画だと『KAMIKAZE TAXI』も似たような骨組みになっています。結局、この骨組みにどのような肉付けをするかが、映画の個性ということになる。この映画の場合、犯罪を起こす男たちが抱える生活と、それが破綻してゆくありさまが、いかにも今の日本の状況にぴったりなのですね。バブル崩壊、不良債権の取り立て、リストラによる首切り、マイホーム幻想とその崩壊。そんな様々な風俗が、この映画をまぎれもない「平成7年の日本映画」にしています。

 これは鬱屈した男たちの感情が爆発する外向きのエネルギーを描くのではなく、社会からはみ出した彼らが、ひっそりと静かに自滅して行く様子を克明に描写した、かなり内向きのエネルギーに満ちた映画なのですね。そこには何の光明も見えない。ひたすら暗く、じめじめしている。登場人物の誰しもが、なんらかの束縛の中でがんじがらめになっている。それぞれの小さな世界の中で、それを守ろうとするあまり、かえって自らをさらなる閉塞状態の中に追い込んでいる。そんな暗い映画でありながら、この映画がきちんと娯楽映画として成立しているのは、出演している俳優たちの力によるところが大きいからでしょう。今をときめく豪華な顔ぶれは、この暗くじめついた映画に華やかさを与えます。

 佐藤浩市・本木雅弘・根津甚八・椎名桔平・竹中直人・木村一八・永島敏行・鶴見辰吾・ビートたけし・室田日出夫。どれもこれも、いい面構えをした男たちではありませんか。終始不敵な面魂の佐藤浩市、夜の街を疾走する本木、別れた妻にやり直そうと懇願する根津、恋人の遺体にすがりつく椎名、自宅で夫婦水入らずのひとときを過ごす竹中、狂ったように笑いながら防弾チョッキを振り回す永島、ワンシーンの登場ながら周囲を威圧する室田。

 中でも、5人の男たちを追いつめるヒットマンを演じたビートたけしの存在感は別格。バイク事故の後遺症か、眼の上にガーゼを貼り付けたままでの出演だったが、この役作りとも言えないガーゼが実に効果的なのだ。顔の中でも表情が端的に現れる眼を片方隠すことで、ただでさえ表情の少ない殺し屋が、さらに無表情で不気味な存在になる。舎弟である木村との関係も、ひりひりするような痛ましさ。木村が撃たれると、それまでの無感動さが嘘のように消えて、突然狼狽し大声を上げるたけし。ラストシーンの余韻も、たけしあってのことだろう。若い本木だけで、あの味は出せないのです。見事。


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