ジャングル・ブック

1995/07/15 松竹セントラル
ジェイソン・スコット・リーが主人公モーグリを熱演。
CGを使ってキップリングの小説をうまく映像化した。by K. Hattori



 キップリングの有名な小説を映画化した作品。以前ディズニーがアニメにしているが、それは未見。原作も読んでいないので、どこがどう原作通りで、どこが映画のオリジナルなんだかさっぱりわからない。今回の映画を観る限り、インドを舞台にしただけのターザン亜流映画にも思える。野生児がいて、生き別れの幼なじみがいて、悪漢がいて、ジャングルの秘宝がある。

 ターザン映画についても、僕は一連のシリーズ映画を観ていない。ただ、クリストファー・ランバートがターザンことグレイストーク卿を演じ、アンディ・マクドウェルがジェーンを演じた『グレイストーク/類人猿の王者ターザンの伝説』だけは観た。『グレイストーク』はよくできた時代劇で、野生児ターザンの数奇な生い立ち、野生と文明の間で葛藤するターザンの姿などを文学的に描いた佳作。この映画と今回の『ジャングル・ブック』は、並べてみるとうりふたつの双生児である。ナイフで指を切るシーンや、件のナイフを使った格闘場面、主人公が人間社会の残酷さに心を痛めるシーンなどは同工異曲です。主人公の野生児は、結局人間社会になじめずジャングルに戻り、そこで獣たちの王になる。ただしこの両者、作品のテイストはずいぶんと違う。

 『ジャングル・ブック』は大人の鑑賞にもたえる良くできた娯楽作品で、『グレイストーク』に濃厚に漂っていた悲哀が皆無。主人公のモーグリの行動も一直線で、じつにわかりやすい。逆に言えば単純で陰影に乏しいとも言えるが、この映画の後半は純粋な活劇ですからそれもまたよしです。美術やコスチュームなど、細部まで手を抜かない作りで、重厚な物語世界を演出しているのもさすが。そして何より、主演のジェイソン・スコット・リーのたくましい肉体が、ジャングルで生き抜いてきた野生児モーグリの存在感に説得力を持たせるに充分なのです。キティに別れを告げ、衣服を脱ぎ捨てながら夜の闇に消えるモーグリには羨望すら感じます。これに比べると、『グレイストーク』のランバートは文明人の野生児ごっこですね。最後にジャングルに戻るシーンでは、彼の先行きに不安を感じたものでした。

 多種多彩な動物たちが登場するこの映画では、動物トレーナーと撮影編集、加えて最新のCG合成技術が大活躍です。CGなしでこの映画を作ろうと思うと、すごく大変だったと思う。この映画は古典の映画化ですが、今だからこそ作れる映画なのですね。

 主人公の兄弟分とも言うべき狼と熊や、彼を背後から見守り、時に危機から助ける黒豹。そして、彼をジャングルに引き込み、最後は彼に森の支配者としての地位を明け渡すことになる大虎。徹底した、健全な娯楽活劇。子どもが観たら大喜びしそうな映画だけに、吹き替え版が欲しいところ。


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