星に想いを

1995/05/20 みゆき座
デタラメな物語をメグ・ライアンの魅力で押し切った。
出演者が豪華なわりに小粒な印象。by K. Hattori



 「きらきら星」のテーマ曲に乗せて、工夫がまったくないようでいて、結構考えてあるタイトル画面。こうした真っ正面からのアプローチが、この映画のトーンにマッチして、なかなかその後を期待させます。全体にとっても可愛い映画ですね。タイトルも可愛いし、お話も可愛い。ウォルター・マッソー演ずるアインシュタイン博士はすごく可愛いし、ティム・ロビンス扮する自動車修理工の青年の真っ正直さも可愛い。もちろん、お相手の数学者メグ・ライアンも可愛いことは、みなさんご承知の通り。登場人物がみんないい人。数少ない意地悪もそれなりに映画の中で消化され、最後は見事なハッピーエンディングに収れんしていく、絵に描いたような絵空事。

 物語自体はすごく古風なスタイル。語り口も同じく、じつに古風でゆったりした、安心して観られる映画です。現代風のひねりは、脇役に実在の人物であるアインシュタイン博士を配置したことにあるし、それによって、ナチの迫害から逃れてヨーロッパから亡命してきた天才科学者を受け入れた、アメリカという国の懐の深さのようなものが画面に漂うのです。そして、その深い懐に抱かれて遊び回る、老科学者たちの天真爛漫さ。こうした描写なしに、主人公たち二人のロマンス成就はあり得ないのですね。どうしたって無理がある。バランスが悪い。つり合わない。でも、そうした無理やバランスの悪さやつり合わなさを、全て受け入れ、許してくれる古き良きアメリカ。科学の進歩が人類の進歩だと、無邪気に信じられた時代。科学技術の進歩が、人々の生活の豊かさに、まだ密接なつながりを持っていた、そんな時代背景の中では、こんなおとぎ話も信じられるのです。この映画の中では、大統領がまだ無条件に尊敬すべき存在として扱われている。大統領は、やはりいい人だった。

 ティム・ロビンスがはまり役。人のいい青年が周囲の思惑から思いもかけない役割を担って大活躍という役柄は、『未来は今』の延長にあるものだが、こちらには『未来は今』にあった暗さがない。この映画の彼は、目の前に意中の人がいる限り、本物のスーパーマンになれる人物。長身で胸を張り、次々とパズルを解いて行くあたりはかっこいい。反対に、子どものようにオロオロしてしまう彼も、すごくいいのです。この役は彼以外には考えられませんね。『ショーシャンクの空に』も楽しみ楽しみ。

 対するメグ・ライアンの役柄は、未来が約束された婚約者がいながら別の男のもとに走るという、『めぐり逢えたら』の焼き直し。意外性はないが、その分感情移入も容易だし、的を射たキャスティングと言えるでしょう。ただ、ノーラ・エフロンの映画に比べると、この映画の役柄は陰影に乏しく平板。そのあたりが、少し食い足りないのは確かです。



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