September Songs
9月のクルト・ヴァイル

1995/05/18 シネ・ヴィヴァン・六本木
クルト・ワイルの曲を使った一種のビデオクリップ集。
バズビー・バークレー風のショットに僕は感激。by K. Hattori



 各分野のアーティストが音楽でつづる、作曲家クルト・ワイルの伝記映画。(本当はカート・ワイルかクルト・ヴァイルが正しいのでしょうが、僕としてはやはり〈クルト・ワイル〉としておきたい。)元ネタは10年前にハル・ウィルナーがプロデュースした企画アルバム「〜星空に迷い込んだ男〜クルト・ワイルの世界」ですが、今回の映画ではアーティストを大幅に入れ替え、ドイツ時代からアメリカでミュージカル作曲家になるまでのワイル作品を、ほぼ年代順に紹介して行きます。古い大きな倉庫の中で、次々と演奏され、歌われて行くワイルの歌曲は、現代風にアレンジされ、時に大きく曲想を踏み出した解釈がされても、オリジナルの力強さを失いません。僕がワイルの音楽に入っていったのもハル・ウィルナーのアルバムからでしたから、この映画はとても面白く観ることができました。

 印象に残るのは、まずテレサ・ストレイタス歌う「スラバヤ・ジョニー」。やくざな男に裏切られた女が口汚く男を罵りながら、それでも彼を愛しているというこの歌を、ストレイタスはドラマチックに歌ってみせます。もともとクラシックの歌手で、声は歌い出しはちょっと行儀が良すぎるかと思わせながら、終盤熱がこもってくると伝統的なクラシックの歌唱を離れて大胆に、絞り出すように、叫ぶように歌う彼女の様子は、ひとり芝居を見るような迫力がありました。彼女はハル・ウィルナーのアルバムには顔を出していませんが、ノンサッチから2枚のワイル歌曲集を出しています。そのせいか、ここに登場してもぜんぜん違和感がない。彼女はこの映画で「ユーカリ・タンゴ」も歌っています。

 しかし何と言ってもこの映画の見どころは、キャシー・ダルトン歌う「アギーズ・ソング」。同じ歌手とアレンジでハル・ウィルナーのアルバムにも取り上げられてるこの短い曲を、この映画ではバズビー・バークレーばりの大レビューシーンに仕上げています。流行りのエボラ・ウィルスではありませんが、僕はこのシーンで顔中の穴という穴から汁気が吹き出しました。涙と鼻水とヨダレまみれ、喜びに身体を痙攣させてたもんね。

 ずらりと並んだミシンの間から、タイツ姿のダンサーたちが飛び出してきた段階で、な〜んか予感はあったんだよね。歌手の前からミシンがするすると上に上がり、地味な女工の服で歌っていたはずの歌手はあでやかなドレスに早変わり。倉庫はいつの間にか巨大なステージに変貌し、円陣を組んで踊るダンサーの中央に歌手。これは来るぞという確信。そして期待通りの真俯瞰カット。ゆっくりと回転する円形ステージでダンサーたちが脚を閉じたり開いたり、膝を右に左に揺らしたり。ああ、できればダンサーをこの5倍に増やしてほしかった。



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