告発

1995/05/04 日比谷映画
刑務所で行われていた非人間的な拷問を告発する弁護士。
今こんな映画を作る意味がどこにある? by K. Hattori



 どうも釈然としない映画だった。舞台はアル・カポネも収監された要塞監獄アルカトラズ。5ドル盗んだ罪でそこに送られた若い囚人ヘンリー・ヤングは、仲間の囚人と脱獄を企て失敗。穴蔵のような独房に3年間送られる。仲間のひとりが裏切ったのだ。3年ぶりに独房を出されたヘンリーは、食堂で裏切り者の男を見かけ、発作的に手もとのスプーンを相手ののどに突き立てる。男は失血死。ヘンリーは殺人の罪で裁判にかけられることになる。

 釈然としない理由はいくつかあるのだが、その根本原因は、この映画に描かれなかったエピソードが多すぎる点にある。物語は実話をもとにしているということだが、これが実話の忠実な再現だとはどうしても思えない。どこかに隠蔽された事実があるような気がするのだ。例えば、ヘンリーが独房入りするきっかけになった脱獄未遂事件について、この映画は何も語っていない。若い弁護士が兄と和解した理由や、恋人と仲違いしたエピソードも、ただ弁護士本人のナレーションで説明されるだけだ。バーバーのアダージョを思わせる感傷的な音楽と、沈鬱なクリスチャン・スレーターのナレーションは、若い二人の男の戦いと友情、そして勝利を歌い上げるが、この展開にはどこか欺瞞の臭いがする。

 ものすごく大きな物語のはずなのに、やけに小さく物語がまとまってしまっている。ものを見る視点が主人公たち二人から離れることがなく、あまりにも自己中心的に思える。社会的な広がりのあるドラマのはずなのに、語り口調が私小説なんだな。ここに例えば、ゲイリー・オールドマン演ずる刑務所副所長のエピソードをひとつ加えるとか、弁護士と兄の確執をもうひとつ掘り下げるとか、上司や同僚との対立をもう少し粘っこく描くとかすれば、この映画はもっと厚みのある佳作になったはずなのだ。今のままではあまりにも独善的で、押しつけがましい感じがしてたまらなかった。

 クリスチャン・スレーターという若い役者がどうも好きになれないのだが、なぜだかわからない。いつまでたってもガキ!って感じがして、どうも嫌だ。『モブスターズ』や『カフス』『トゥルー・ロマンス』のような悪ガキ役ははまるのだが、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』やこの映画のような、多少なりとも知的な役は似合わないような気がする。対するケビン・ベーコンは、最近すごくいい。落ちついた、大人の役者になってきた。貫禄があるし、風格さえ感じる。この二人がからむと、まるでスレーターが貫禄負けして、ちょっと哀れだな。

 謎の女記者ブランチを演じたキーラ・セジウィックが、短い出演ながらオイシイところをさらう。セジウィックとベーコンが私生活で夫婦だということを知らないと、この場面は面白くないんだけどね。



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