Love Letter

1995/04/03 シネスイッチ銀座
死んだ恋人に宛てたラブレターに同姓同名の他人から返事が来た。
絵作りや編集は面白いけど少し冗長に感じる。by K. Hattori



 映像のムードは素晴らしいのに、お話がそれについていかなかった。絵に引っ張られて退屈はしないが、観終わった後、かなり食い足りない印象が残る映画だ。主演の中山美穂は、来年の日本アカデミー賞(ケケケ)にノミネートされてもいい好演。サポートする豊川悦司が、いつものエキセントリックな役からは打って変わった自然さで、中山を包み込むような、柔らかでしなやかな演技を披露する。

 映画の冒頭、ゆっくりと落ちてくる雪の中を、喪服姿の中山美穂がゆっくり画面を縦断する、コントラストの効いたモノトーンの素晴らしい映像。これで一気に映画に引き込まれた。このシーンの音が割れていたのは、劇場の音響のまずさか、あるいはもともと音が割れているのか。時折ザラザラとノイズが混じっていたのが気になった。

 恋人を遭難事故でなくした主人公が、恋人がかつて住んでいた、今はない住所に手紙を書く。ところがそこには恋人と同姓同名の女性が住んでいて、彼女が面白半分に手紙に返事を出したことから、物語がゆっくりと滑り出して行く。やがて始まる手紙のやり取り。序盤のこのムードは最高です。

 ところどころにヒヤリとするぐらいシャープなショットが現れるので、目は画面に釘付けにさせられます。序盤で印象的だったのは、小樽の町中で、ふたりの主人公がすれ違うシーン。「藤井さん」と呼びかける中山に、自転車を止めてゆっくりと振り返るもうひとりの中山。彼女はけげんそうに周囲を見回すと、またゆっくりと自転車を走らせる。一瞬の出会いと別れ。緊張感みなぎる映像。

 天国から届いた手紙の正体は、この時点ですっかり明らかにされ、その後は死んだ藤井樹の中学時代のエピソードを、もうひとりの藤井樹がたどる構成になる。このあたりで、物語のダイナミズムが死んでしまうのが残念。回想シーンはそれなりによくできているが、全体を貫くゆったりしたムードにそぐわぬ小さなエピソードの積み重ねは、映像のリズムがちぐはぐで、違和感を感じざるを得なかった。もう少し、エピソードを整理して、ひとつひとつをたっぷり描いた方が良かったかもしれない。

 後半は神戸と小樽のふたつの港町に住む、ふたりの主人公をパラレルに描いて行くのだが、この手法も果たして成功といえるのかどうか疑問。終盤になるとふたりの行動はまったくバラバラ。映画はふたつの物語を別々に抱え込んだまま、結末に突入する。

 長短変化自在のカットを縦横無尽につなぎ合わせることにより生まれる、独特の映像リズムは観客を陶酔させること必至。今回は脚本が映像に負けてしまったが、もっと骨組みのしっかりした脚本とひとつになると、この映像センスはとんでもない映画を生み出すに違いない。監督の次回作に期待する。



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