赤ちゃんのおでかけ

1995/03/10 みゆき座
部屋から抜け出した赤ん坊が巻き起こす大騒動。
お子様映画だけど大人も充分楽しめるはず。by K. Hattori


 営利誘拐をたくらむ悪党達が、誘拐した子どもにてんてこまい。結局はさんざんな目にあってこりごりするという、O・ヘンリーの「赤い酋長の身代金」にもある古典的アイディアの映画化。『ホーム・アローン』シリーズも『わんぱくデニス』も、結局はこのアイディアのバリエーションなんだね。今回の映画のミソは、誘拐されるのが、まるっきり周囲の状況がわかっていない赤ん坊だということ。台詞は「ブーブー」しかないんだけど、この「ブーブー」が結構最後の最後に生きてくる。台詞がないから、『ホーム・アローン』シリーズのように説教臭くなりようがない。マコーレー・カルキンの良い子ぶりが鼻につく僕としては、うれしい映画です。

 この単純なアイディアを、最新SFX技術と芸達者な俳優たちを揃えて、完全なドタバタ喜劇にしてしまうエネルギーには敬服する。ジョン・ヒューズの脚本はややもするとウェットな方向に傾いて、ギャグまで湿っぽくなりがちなんだけど、今回はかなり除湿効果の高い映画に仕上がっています。とにかく赤ん坊が〈何も考えていない〉というのが前提ですから、観客が主人公である赤ん坊その人には感情移入できない構造になっている。その分、周囲のハラハラドキドキがたっぷりなんです。ま、それも要所要所で赤ん坊がニコリと笑い、観客がデレデレになってしまうので、完全にドライな笑いには昇華し得ないんだけどね。

 誘拐の主犯格ジョー・マンターニャが、『ハードロック・ハイジャック』のしけたDJぶりとは打って変わった好演を見せている。『ホーム・アローン』のジョー・ペシとダニエル・スターン、『わんぱくデニス』のクリストファー・ロイドなど、ジョン・ヒューズの映画は憎めない小悪党のキャスティングがうまいですね。マンターニャはどんな映画で見ても一風変わった個性的風貌だけど、今回はそれに輪をかけて変な扮装で登場させるあたりがニクイ。相棒のジョー・パントリアーノとブライアン・ヘイリーもいい味を出してます。

 今回の主人公は生後9ヶ月の赤ん坊ビンク。双子の赤ちゃんアダム・ロバート・ウォートンとジェイコブ・ジョセフ・ウォートンが演じていますが、それに加えて危険なスタントシーンで彼らの身代わりを演じたのが、職人リック・ベイカーの製作した複数のマペットたち。どこをどう見ても、どこからが生身の赤ん坊で、どこからが人形なのかがわかりません。これに限らず、ありとあらゆる映画のテクニックを駆使して作り上げた、アクロバティックなスタントシーンの数々は、『トゥルーライズ』のシュワちゃんも真っ青になること請け合いです。

 今年に入ってこれほど笑った映画ははじめて。健全な娯楽映画の王道をいく、好感の持てる作品です。


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