平成無責任一家
東京デラックス

1995/02/04 ニュー東宝シネマ2
『月はどっちに出ている』はあんなに面白かったのに〜。
ギャグがかみ合っていないんだよなぁ。by K. Hattori


 つまらないかと問われればそんなことはないのだが、では面白かったのかと問われると返答に窮する映画だ。東京に出てきた詐欺師一家が巻き起こす、すったもんだのドラマがメインなのだが、「詐欺師一家が云々」という前提から観客が期待する面白さは、この映画の場合希薄だと思う。この前提の場合、観客が期待するのはやはり『スティング』を筆頭とする犯罪映画の数々だろう。詐欺師の家族を描いた映画では、そのものズバリ『グリフターズ/詐欺師たち』というブラックな秀作もあるが、『東京デラックス』で描かれる詐欺師の姿は、こうした映画群とはかけ離れている。

 とにかくアマチュアなのだ。やり方が全然プロらしくない。詐欺師に必要な入念な準備と、それを綿密に実行して行く能力に欠ける連中ばかりなんだな。唯一プロの仕事をするのが次男の岸谷五朗だけ。そんな彼の下準備だが、他の兄弟たちがことごとくダメにして行く。観客はみていてイライラする。どんな詐欺にも最初の仕込みは必要で、それには時間もかかるし金もかかる。そんな準備をわずかなはした金のために全て無駄にする兄弟たち。観客もイライラするが、岸谷が一番イライラする。俺がなんでお前たちの尻拭いをするのだ、俺はウォシュレットかと叫ぶ気持ちもわかる。

 これは詐欺師の物語じゃなくて、家族の物語なんだ。父親不在の家族の中で、一生懸命家族をまとめようとする次男の話だ。『スティング』を期待すると裏切られるが、家族の話として観れば、そこにはまぎれもなく『月はどっちに出ている』と同じおかし味を見つけられるはずだ。

 中心になるエピソードは特になく、印象に残る小さなエピソードをつなぎながらダラダラと物語をつむいで行く手法は『月はどっちに出ている』と同じ。前作では在日朝鮮人とフィリピーナの恋物語というとっかかりがあったが、今回の〈詐欺師一家〉という仕掛けには前作ほどの引っかかりがない。考えてみれば、監督崔洋一にとって前作『月はどっちに出ている』は、スピルバーグにとっての『シンドラーのリスト』みたいな位置づけなのだろう。同じものを期待する方が、無理というものだと思う。

 この映画に見られるユーモアは、ちょっと重たいユーモアだ。アメリカ映画にあるような、からりと乾いた描写がほとんどなくて、どことなく湿っぽく、歯切れの悪いものばかり。これはこれで面白いんだけど、なんだか中途半端な感じも受ける。この点については、前作の方が描写に思い切りがあった。

 ま、前作はWOWOW版もあわせて同じものを2度作っているんだから、まとまりがあるのは当然なのかもしれないけどね。今回はちょっと期待はずれ。崔監督の次回作、『マークスの山』に期待する。


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