愛の新世界

1995/01/20 銀座シネパトス2
エッチでしかもカッコいいSMの女王様とホテトル嬢の友情物語。
出演者の若さが演出のぬるさを補った傑作。by K. Hattori



 この映画はちょっと損をしている。まず、成人映画というワクで上映されていることで、ある一定のレッテルを貼られてしまったこと。次に、宣伝材料があまりないことから、〈写真・荒木経惟〉という戦略をとったこと。これもまた、映画をみる観客に余計な先入観を与えるものだと思う。実際の映画は、すごく素敵な青春映画だった。

 画面がすごく明るい。そしてカラフル。まるでビデオ映画のようなノリの映像で、一歩間違えると現代風俗をあつかった、のぞき見的なキワモノ映画になりそう。素材が素材なだけに、やたらと軽い映画になるか、やたらとジメジメドロドロした映画になるかのどちらかになりがちな物語だと思う。ところが、この映画はそのどちらでもない。

 最初はやっぱりギョッとした。(僕って結構保守的だからさ。)ただ、こうして手の内を全部ばらしてしまうことで、映画の後半はずっと楽に観られるようになる。最初は泥水のように見えたのが、徐々に上の方から澄んでくる感じ。すごく不思議なのは、そうした上澄みの下に、ドロドロした澱が溜まっていかないこと。映画のラストに至っては、全体が極めて透明な印象の映画になっていました。

 こうなった原因は、脚本と演出にあると思う。最初から最後まで、さしたる事件の起こらない映画だけれど、観ていてこんなにドキドキした映画も久しぶりです。とにかく、次になにが起こるかわからない期待感が、ずっと持続する。シーンのつなぎもエピソードのつなぎも、テンポが良くて軽やか。ウェットなところをさらりと流す構成もよい。深刻なシーンで差しはさまれるユーモアにもにやりとする。

 主人公の友人(というより副主人公)のホテトル嬢が変な客にあたって危機一髪というサスペンス。ここで救援に現れるヤクザが哀川翔というキャスティングも、結構おかしい。なんだかこれだけで、すごくホッとするんだな。打ち上げのカラオケ・デュエットとコンドーム風船もいい。すごくいい。 各エピソードそれぞれに脈絡はないんだけれど、その一方で、押さえるところはきちんと押さえ、各エピソードを〈お話〉として見せている。やくざのエピソードは人情話っぽかったし、主人公が半可通の客を調教してしまうエピソードにはなぜか涙が出ました。感動していたのです、僕は。

 こんな俗っぽさに水を差して、主人公のキャラクターに血肉を与えていたのが、所々に挿入される荒木経惟のモノクロ・スチル。これで映画がギュッと締まる。このバランスがあるから、物語の方は思いきり飛んだりはねたりできるんでしょうね。

 まぎれもない〈今〉を描いた日本映画の傑作。キネ旬ベストでは9位だったけど、これは上映時期が悪かったね。もっと上位でもいい作品だ。


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