億万長者になった男

1994/11/24 松竹セントラル3
ビデオ用映画でも箔をつけるために映画館にかけることがあります。
テーマや作り手の意欲が作品に結びついていない駄作。by K. Hattori


 いかにもビデオ向き映画らしい仕上がり。学生時代の友人男女3人、それぞれの生き方を描きながら、そこになんのメッセージもドラマも生じていないのは見事と言うしかない。全編を彩る陳腐なエピソードの数々は、暇つぶしにもってこいである。オープニングの気の抜け方は半端じゃなく、今後の物語に嫌な予感を抱かせるに充分な仕上がり。オーストラリアでロケしたわりには画面にも物語にも広がりがなく、テレビサイズにこじんまりとまとまっている。

 話の組立に芯がなく、蛇行気味なのが気になる。主要登場人物は3人だが、この内容なら、主人公の薬丸だけに焦点を合わせるべきだった。視点を平等に分配しようとした結果、語り口がバラバラで、中心になる人物が良くわからなくなっている。

 キャスティングに文句を言ってもしょうがないが、薬丸の商事会社での上司が坂東英二というのは納得がいかない。どうひいき目に見たって、切れ者の部長にはならないものなぁ。

 物語のスケールのわりには登場人物が多く、各キャラクターのエピソードが薄っぺらになってしまっている。例えば宝田明扮する財界黒幕や、その息子と主人公の確執など、もう少しシンプルな仕上げ方はなかったのだろうか。宝田と薬丸の関係も、あの息子がいればもっとドラマチックな展開が可能だったはず。主人公と妻と宝田の三角関係も、もっと物語に深くからませるべきだったと思うけどなぁ。

 主人公の行動に共感を持つひとなんて、たぶんだれもいないと思う。その一点で、この映画は完全な失敗作だろう。また、彼が最後の拠り所とする友人たちとの信頼関係も、あまりうまく描けていたとは思えない。このへんは演出の問題。バーテンと3人の関係も、もう少し掘り下げてほしかったなぁ。

 全体に安っぽい雰囲気になってしまうのは、予算だのなんだのとイロイロな理由があるんでしょうが、話の組立は金がなくても知恵さえあればどうとでもなるはず。それができていないこの映画に、作り手側の思い入れや愛情の片鱗も感じられはしない。これは多くのオリジナル・ビデオ映画に言えることでもある。なぜこんなことになってしまうのかわからないが、僕は大いに不満です。

 それにしても、薬丸演ずるこの主人公って、ちょっと調子がよすぎないかな。学生時代からの恋人を自分の自尊心のためだけに捨てて他の女性と結婚し、その女性をも結果としてはひどく傷つけ、あげく元の恋人とよりを戻して胸はって生きていくなんて、僕には恥ずかしくてとてもできないよ。

 明星食品が実名で出てきたけど、はじめは女性に優しい会社という雰囲気ではじまり、最後はデキのいい社員をあえて左遷するゲスな会社に成り下がってしまった。それでいいのかね、明星!


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