クロウ
飛翔伝説

1994/09/21 松竹セントラル1
この映画の撮影中に主演のブランドン・リーは謎の事故死を遂げた。
生きていれば彼を大スターにしたであろう傑作。by K. Hattori


 オープニングのイメージは明らかに『ブレードランナー』の影響が見られるし、終盤の対決シーンにもそれは見られた。もちろん美術デザインには『バットマン』の影響もあるだろう。でもいい。かっこよければ何をしても許されるのだ。

 この映画を撮影中に主演のブランドン・リーが事故死しているが、そのニュースを聞いたときからどんな映画を撮っていたのか興味津々だった。完成した映画は銃弾の雨あられ。間違えて銃の中に実弾が紛れ込めば、まったく誰が撃ったかわからなかっただろう。完成した映画の中でブランドン・リーは魅力たっぷりに見え、生きていればこれが彼の出世作になったであろうことは間違いない。つくずく残念な死だった。合掌。

 ギャングに恋人共々殺された主人公は、1年後に復讐のため墓場からよみがえる。彼はカラスの不思議な力を借りて不死身だが、切れば血の出る生身の身体であることは間違いない。すぐに回復するが、傷はつくし殴られりゃ痛そう。でも、目の前で恋人を陵辱された屈辱と怒り、それでいて彼女を救えなかった自分自身を責めさいなむかのように、彼は敵の暴力の前にしばし身をさらすのだ。まるでそれが、病院のベッドで30時間苦しみ抜いた末に死んだ、恋人への償いであるかのように。彼のピエロのようなメイクは、なすすべもなくむざむざと殺されてしまった自分を笑っているかのようにも見える。

 美しい夜間シーンにうっとり。主人公と傷ついた恋人がアパートから運び出されるオープニング。よみがえった主人公が朽ちかけたアパートに戻り、彼を導いたカラスとともに屋根から屋根へと駆け抜けて行くシーン。そして目には目をの復讐劇。全ては夜が支配しているのだ。カラスはその夜の代理人であるかのように悠然と画面を横切り、フワリと主人公の肩にとまる。どうやって撮影したのか知らないが、あまりにも幻想的でかっこいいシーンの連続に快感を覚える。

 主人公がなぜ殺されなければならなかったのかというあたりが、もう少し説明不足な感じもするが、そんな因縁話より甘美な復讐劇に身をゆだねる方が魅力的。ギャングとの壮絶な銃撃戦と、飛び交う弾丸の中でアクロバティックに宙を舞う主人公のかっこよさ。見るからに悪人面のギャングを、ばたばたとなぎ倒して行く気持ちよさったらない。このダイナミックな場面から一転して、古びた教会の静寂の中でのクライマックス。教会に入ってくる主人公を逆光で捉えたカットと、彼が会堂内を歩くシーンを真俯瞰から捉えたカットは身震いが出るぐらいきれいだった。

 全ての戦いを終えた主人公が、墓の前で恋人に迎えられるシーンには涙が出た。残酷な復讐劇の末尾を飾るには、あまりにも甘いラストシーン。最初から最後までやたらと感傷的なトーンにいろどられたこの物語には、まさにふさわしい幕引きだったと思う。


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