ザ・チェイス

1994/09/21
すっかりB級役者になったチャーリー・シーン主演の傑作カーアクション映画。
ノリノリのスピード感で疾走するハイテンションムービー。by K. Hattori


 ノリノリのスピード感だけで疾走する、B級青春カーアクション映画。物語はシンプルで、真っ赤なBMWでメキシコ目指してひたすら逃げる青年と、たまたま人質になった富豪令嬢、追いかけるパトカーと報道陣がハイウエイを走るだけの物語だ。登場人物達のキャラクターがいかにもアリガチな設定ばかりなんだけど、そのアリガチ度合いが尋常なレベルから突き抜けていて愉快。各キャラクターそれぞれの役柄と性格を、最後の最後までキッチリと押し通している図々しさが、映画に毒々しいまでの魅力を与えている。

 場面と場面をつなぐワイプ処理とパンを多用したカメラ撮影で、画面が猛烈な勢いで流れる。逃走車の内部、追いかけるパトカー、ヘリコプター、警察署、ニューススタジオなどが次々に登場しては消え、これが実にリズミカルだ。適度な緊張感の維持は快感。時折見せるグロテスクなブラックユーモアにはニヤリとさせられ、スラップスティックには声を出して笑う。ただ車が走るだけで単調なはずの物語に、これだけのエピソードをぶち込み、見せてしまう監督の技量には関心した。

 『トゥルーライズ』の制作費が史上最高と話題になっているが、この『ザ・チェイス』という映画にはこれ以上の予算をかけても無駄だろう。出演するタレントを豪華にしても意味はないし、スタントシーンや爆発シーンを大規模にしてもバランスを崩すはず。映画には、内容に見合った予算規模というものがあるのだ。

 『いつかギラギラする日』という日本映画はその点でバランスの悪い映画だった。脚本の内容に比べて出演者が豪華すぎ、それが物語進行の重荷になっていたのだ。あれは対立する二人の男以外の比重を落として、もっとスピーディーでコンパクトな展開にすべきだったのだろう。豪華な脇役キャストは贅肉になる場合がある。最近の映画なら『トゥルーロマンス』にも似た雰囲気を感じている。

 『ザ・チェイス』は幸か不幸か助演陣にビッグネーム不在で、その分わき目もふらず、観客の目は主演二人に釘付けになる。主演がチャーリー・シーンとクリスティ・スワンソンというのも程良い華やかさ。これ以上派手な役者を使うと、物語はとたんにウソっぽくなるはず。(ブラッド・ピット主演の『ザ・チェイス』なんて考えられない!)B級の素材をB級の役者と予算で撮った、B級映画の佳作だと思う。

 この軽快で痛快な映画を監督し、脚本も書いたのはアダム・リフキン。僕は初めて知った名前だが、今後は注目しようと心に決めた。さりげなくネガティブなコミックシーンの数々は、一筋縄では行かないアンチ・クライマックス指向のひねくれた性格を思わせずにはいられないが、なによりも明るいのがいい。ぐいぐいとラストまで観客を引っ張って行く強引さも素敵。僕は大好き。


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