ヒーローインタビュー

1994/09/05
真田広之演ずる野球選手と鈴木保奈美演ずるスポーツ記者の恋物語。
光野道夫監督の意欲は買うが構想は空回りしがち。by K. Hattori


 全然期待せずに観に行った映画だったが、この映画は悪くない。そこそこの水準はクリアしている。もちろん欠点がないわけではない。最大の欠点は鈴木保奈美が役者としてはてんで素人で大根以前という点だが、こればかりは彼女の所属プロダクション製作の映画なのだから仕方がない。最近あまり仕事に恵まれていない彼女を主役に据えて「東京ラブストーリー」の頃の栄光再びというのが企画意図だろう。僕は映画開始早々この点には目をつぶることにした。

 物語の流れでは、霞が仁太に惹かれる理由にはそれなりの納得がいくのだが、仁太が霞に惹かれる理由に説得力がない。仁太の別れた妻との関係がその後どうなっているのかも、少しは説明が必要だろう。霞と婚約者の関係描写にも工夫がほしかった。似た展開の映画としては、アメリカ映画『カーリースー』がこの点をうまく消化していたと思う。(今思ったんだけど、『カーリースー』をケリー・リンチの側から描くと『ヒーローインタビュー』と全く同じ人物配置になるのだなぁ。)

 他の欠点の多くは細かなことで、それをことごとくあげても意味がないので気になる点をいくつかあげるにとどめる。例えば、新聞記者とはいえサラリーマンには違いあるまい。スポーツ部の記者はその点でのリアリティーがない。また、東京経済新聞ではスポーツ記事が添え物らしいが、それにしたってスポーツ部全体で6人というスタッフは少なすぎはしないか。霞の住んでいる部屋の豪華さは一瞬で家賃数十万という金額を観客に連想させるが、これは若い新聞社社員に到底住めそうもない。霞と球子の会話で「この世の果て」だの「家なき子」だのという楽屋オチが台詞にちりばめられるが、ここで館内は苦笑失笑に満ちた。経済部デスクの石井は霞の婚約者だが、彼の説くプロスポーツ無用論には経済面からも意義が出されるところだろう。東京タワーからの夜景が、いかにも安っぽくて書き割りだということがバレバレ。同じく東京タワーでのすれ違いシークエンスは、エレベーター扉の開閉タイミングが間延びしすぎ。仁太が新人選手とダイヤモンド一周競争するシーンは後半にもう一度入れて、仁太に挽回のチャンスを与えるべき。成田から神宮までヘリを飛ばす強引さには目をつぶるとしても、その料金はあんまりじゃないか。こうした細部のツメの甘さは映画全体を安っぽくし、観客に「しょせん日本映画は……」とあなどられる原因となるはずだ。

 多くの欠点を持った映画だが、僕はこの映画を面白く観た。前半はウンザリすることも多かったが、中盤から後半にかけてはなかなかいい。(娯楽作品の導入部でウンザリさせるのは困りモノだが……。)まず素晴らしいのは(鈴木保奈美以外の)各登場人物が、役者のがんばりでかなり見られるキャラクターになっている点。真田広之演じる轟仁太は陰影のある好人物に仕上がっており、彼が引退を決意した夜アパートの部屋で男泣きになくシーンは観客に間違いなく感動を与える。娘役の安達祐実もイヤミのない演技で天才子役ぶりを発揮しているし、武田鉄矢のプロ野球監督もはまっていた。いしだ壱成演じた霞の同僚記者もいい。山本圭・鶴見辰吾・関根勤らのベテランは脇を固めて物語に厚みを出し、萩原聖人・岸谷五朗・渡嘉敷勝男らが画面に華を添える豪華キャスト。鈴木保奈美の恋人でもある江口洋介を登場させたのはご愛敬だろう。

 TBS製作の映画『高校教師』は悪夢だったが、フジテレビ製作のこの映画は同じ野島伸司脚本とは思えないほど出来がいい。(フジ製作の映画では昨年の『眠らない街/新宿鮫』がいい出来だったが、あちらは脚本が荒井晴彦、監督が滝田洋二郎という映画のスタッフによる映画だった。)『ヒーローインタビュー』の監督・光野道夫はテレビでのドラマ演出経験があるとはいえこの映画がデビュー作。多少荒っぽい所もあるが、健全な娯楽作品を作りたいという意図が画面から伝わってきて、僕はその態度を好ましく思った。CHAGE & ASKAのテーマ曲や豪華なキャストはデビューにあたってのサービスだろうが、結果としてそれが映画全体に余計な重荷となっている印象も受ける。もし劇場映画次回作があるのなら、今度はもう少しシンプルな構成で同じぐらい面白い作品を見せてほしい。

 この手の映画はハリウッド映画の十八番だが、それを無理なく日本映画というワクに移植した手腕は立派。出会い・いさかい・和解・すれ違いなどが定石通りに展開し、安心して見ていられる。ただし、ラストシーンには大いに不満。百分の1の可能性に賭けるスリルは、時々それが成功してこそ意味があると思う。永遠に成功しなければ、その可能性はゼロと同義だ。グラウンドを全力疾走する仁太に観客がこぶしを固く握って声援を送り、最後は球場中が敵味方を問わず大歓声に包まれるというラストシーンを期待したのだが……。結果ではなく過程に意味を見いだす、あまりにも日本的なラストシーンだと思った。


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