靴をなくした天使

1993/04/25
ダスティン・ホフマン、アンディ・ガルシア、ジーナ・デイヴィス。
三人の個性がぴったりはまった傑作人情喜劇。by K. Hattori



 不時着事故を起こした飛行機の人命救助にひょんなことから貢献してしまったコソ泥と、この現代のヒーローを探し出そうと躍起になるテレビ局、そしてふとしたきっかけと小さな出来心から不本意ながら現代のヒーローに祭り上げられていく男の物語。妻と別居中のせこいコソ泥・バーニーにダスティン・ホフマン、事故機に偶然乗り合わせていたテレビ局のレポーター・ゲイルにジーナ・デイビス、バーニーをたまたま自分の車に乗せたのが縁でホームレスから一躍現代の英雄に祭り上げられる青年・ジョンにアンディ・ガルシアがそれぞれ紛している。

 本人が名乗り出ないのをいいことに人命救助の張本人として名乗りを上げるジョンは、普通に考えれば嫌なやつ。だがそこは脚本ががんばって、ジョンを誠実な好青年にすることに成功し、加えてアンディ・ガルシアというキャスティングがこの人物に現実味を与えている。

 ホームレス生活につかれていたジョンが数十ドルの謝礼ほしさにテレビ局に持ち込んだ泥だらけの靴が、彼を一躍現代の英雄する。何度も真実を打ち明けようとするジョンだが、そのたびにきっかけを失って、彼はずるずると英雄家業にはまり込んでいってしまうのだ。追加取材でジョンの証言の裏をとらなかったゲイルはジャーナリストとしては失格かも知れないが、そこはジョンの容姿と人柄に加え、自分自身の命の恩人に会えたという喜びが彼女を舞い上がらせている。バーニーは本来なら自分が受け取るはずだった謝礼のことでジョンをののしり自分の正当性を主張するが、だれも彼の言うことを聞きはしない。

 『許されざる者』でも名前を見ることができたデビッド・ウェブ・ピープルズの脚本は、この修復不可能とも思える混乱状態を上手くハッピーエンドに着地させている。主要な人物の性格にも無理がないし、「誰でもヒーローになれるんだ」というメッセージはわかりやすい。ラストの落ちに切れ味はないが、まあ、お約束通りの出来栄え。『グリフターズ/詐欺師たち』でもテンポのいいドラマ運びをみせていたスティーブン・フリアーズの演出も、さらにリズミカルで軽快さを増しているような気がする。(これにはもちろん映画の内容も関係するのだろうが……。そう言えば『グリフターズ』も主要人物は3人だったな〜。)こまかなエピソードがたたみ掛けるように物語をクライマックスへと引っ張ってゆく。だれないし、あきない。

 脇役だが、『トイズ』にも出演していたジョーン・キューザックが、ダスティン・ホフマンの別れた妻の役で登場する。『トイズ』とは180度かわって、生身の生活感あふれる人物の役である。偶然近い時期に公開されただけの話だが、役柄のあまりの落差に、僕は椅子からずっこけそうになりました。『トイズ』の彼女もよかったけど、こちらもなかなかです。

 ところでこの映画、原題は"HERO"なのだが、チラシや新聞広告ではなぜか"ACCIDENTAL HERO"という英語タイトルが印刷されている。こうした二重の英語タイトルは時々あって、僕が最初に気がついたのはジュリア・ロバーツ主演の『愛の選択』だった。この映画の原題は"DYING YOUNG"なのだが、広告その他では英語タイトルが"The Choice of Love"になっている。原題とかけ離れたつまらない日本語タイトルをつけられるのは問題だが、原題を隠蔽してしまうこのような「原題もどき」はそれ以上にたちが悪い。こうしたタイトルは、いったいどこの誰が考えるのだろう? それとも英語タイトルってものには最初から何種類もあるのだろうか? どなたか詳しい人がいたら教えていただきたいものです。



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