さよなら、アドルフ

2013/12/04 映画美学校試写室
ナチス高官だった両親を逮捕された子供たちの戦後。
少女は旅の中で老いていく。by K. Hattori

13120401  1945年春。ドイツ軍の将校を父に持つ14歳のローレは、普段滅多に自宅に帰ってこない父が久しぶりに家に帰ってきたことに驚いた。だがそこにはただならぬ空気が漂っている。「すぐに荷物をまとめて!」と号令を掛ける母と、家中の書類を庭に出して燃やしている父。出発間際、父が一家の愛犬を軍用拳銃で射殺したことにローレは大きなショックを受ける。だがこれは家族の生活が崩壊していく第一歩に過ぎなかった。ローレたち家族7人が移り住んだのは、森の中の小さな家。ある晩、母は食料品の調達に出た後、ひどい姿で戻って来た。「あの方が亡くなったわ!」と感情を露わにする母。「お父さんが死んだの?」「なに言ってるの。総統よ。総統がお亡くなりになったのよ!」。ナチスドイツは崩壊し、父は逮捕された。

 やがて母も連合軍の命令で出頭することになる。出頭すれば逮捕は免れないが、少しでも心証を良くするぐらいの効果はあるのだろう。森の中の家に取り残された子供たち。「お祖母ちゃんの家に行こう。そこにはお父さんとお母さんが先に行って待ってるわ」と妹や弟に言い聞かせ、ローレの過酷な旅が始まるのだった。だが連合軍の占領が始まったドイツは複数の地域に分割され、移動は容易ではなかった。ローレはこの旅を通して、敗戦の厳しさと、ナチスドイツの真実を知るのだった……。

 敗戦後のゴタゴタを、親とはぐれた幼い子供たちが生き抜こうとする物語。隠れ家から親戚の家までの移動と、その間のエピソードを数珠つなぎにしていくロードムービー形式だが、この旅の過程で、主人公ローレは無垢な少女から世の中の苦渋を知り尽くした大人へと成長する。彼らが途中で出会うトーマスというユダヤ人青年との、温かく、それでいて少し危うい協力関係が、単なる移動の物語に奇妙な味わいを付け加える。それは思春期の少女が迎える性の目覚めであると同時に、自分自身を壊してしまおうとする自己破壊衝動のようなものでもある。

 物語の中で、ローレの生活は外側から壊されていく。慣れ親しんだ平和な暮らしからの逸脱によって。両親の逮捕によって。ドイツの敗戦によって。そして連合軍によって知らされた、ナチスドイツの正体によって。父が犯していたおぞましい行為によって……。ローレはこうして自分の外から迫ってくる世界の破壊に、自分の内側から自分自身を壊していくことで対応しようとする。壊して壊して、一切を壊し尽くしてしまえばいいのだ。ローレの自己破壊衝動が、結果としてそれとは別のねじれた結果を生み出すところに、この映画の苦いアイロニーがある。

 ローレを演じたサスキア・ローゼンダールが素晴らしい。1993年生まれだから、この映画の撮影時には17か18ぐらいだったのだろうか。無垢な少女から、何もかも知り尽くした年増女のような表情に変貌していく様子を見事に演じきっている。

(原題:Lore)

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2014年1月11日(土)公開予定 シネスイッチ銀座
配給:キノフィルムズ
2012年|1時間49分|オーストラリア、ドイツ、イギリス|カラー|アメリカンヴィスタ|5.1ch
関連ホームページ:http://www.sayonara-adolf.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:暗闇のなかで(レイチェル・シーファー)
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