武士の献立

2013/10/21 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Artスクリーン)
上戸彩扮するしっかり者の姉さん女房が主役の時代劇。
わりとちゃんとした本格派でした。by K. Hattori

13102102  加賀百万石の台所を預かる舟木家に、江戸から花嫁がやって来る。加賀前田家の江戸屋敷で武家奉公をしていた春が、舟木家の当主伝内のたっての願いで、はるばる江戸から嫁入りしたのだ。息子の安信は兄の急死で家督を継ぐことになり、父と同じ台所方の御用を勤めることになったが少しも身が入らぬ様子。そこで、料亭の娘で抜群の舌と料理の腕を持つ春に、この息子に活を入れてほしいとの御達しなのだ。結婚から間もなくして、舟木家には親戚連中が集まって安信の料理を吟味する催しが開かれる。口うるさい親戚たちは安信の料理に文句ばかり。見かねた春は、夫の作った汁を自分の判断で作り直してしまうのだが……。

 山田洋次の『武士の一分』、森田芳光の『武士の家計簿』に続く、松竹時代劇の『武士』シリーズ第3弾。『武士の家計簿』に引き続き、今回も江戸時代の実在の武士をモデルにした半ば実録、半ばフィクションの作品。ニコニコ笑わせながら最後はホロリとさせる、よくできたホームドラマになっている。監督は『釣りバカ日誌』シリーズの終盤を支えた朝原雄三。脚本は『武士の家計簿』にも参加した柏田道夫に加え、山室有紀子と朝原監督の連名。バツイチの姉さん女房と意地っ張りの年下夫がバタバタと夫婦になる物語に、実在の加賀騒動をからめ、最後は大宴会で締めくくるという構成は、オーソドックスだが安心して観ていられるものだ。

 主演の上戸彩は『あずみ2 Death or Love』以来8年ぶりの主演映画とのこと。大きな目と口は時代劇向きじゃないなぁ……と『あずみ』の時は思ったのだが(あれは主人公に外国人の血が混じっているという設定だったのかな)、今回は意外にも良かったと思う。いや、すごく良かったと言っておこう。時代劇映画全盛時代のお姫さま女優とはまったく系統の違う現代的な顔立ちだが、押しの強い庶民出身の姉様女房には似合っている。時代劇向きの顔でないことが、この映画の中では「武家出身ではない」というヒロインの性格、ひとりだけ場違いなところでがんばっている様子を強調する助けになっているのだ。アップになると「上戸彩もそれなりに大人になったなぁ」と思うわけだが、これも成熟した大人の女性としての色気と落ち着きにつながっていて実にいい感じだ。上戸彩は時代劇向きではないと思うが、今回はその向いていないところがうまく役柄にはまっていたのだと思う。

 朝原監督の演出は緩急自在で、ほのぼのしたホームドラマから緊迫感あふれる政変劇まで一定のトーンできちんと描き分けていく。藩の重臣に対するクーデター騒ぎに巻き込まれた夫を、ヒロインが必死に守ろうとするくだりはこの映画のクライマックス。欲を言えばこの後の供応料理の場面と、その後の鹿賀丈史の独り言に小さなクライマックスがあると良かった気もするが、朝原監督はこの映画をあくまでも「夫婦の物語」として描きたかったのだろう。

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12月14日(土)公開予定 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
第26回東京国際映画祭 特別招待作品
配給:松竹
2013年|2時間1分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.bushikon.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:武士の献立
ノベライズ:武士の献立
関連書籍:包丁侍 舟木伝内: 加賀百万石のお抱え料理人
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