今日から明日へ

2013/10/17 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(スクリーン4)
北京市郊外で暮らす若くて貧しい蟻族の若者たち。
映画からは今の中国が見えてくる。by K. Hattori

tiff26  北京の郊外にあった村々が、北京市に飲み込まれていく。かつては牧歌的農村地帯だったはずの村々は、北京市の人口増加によって、北京で働く労働者たちのベッドタウンになった。地方から都市部への移住は厳しく制限されているが、大学進学のため地方から北京に移住した若者たちは卒業後も故郷に帰らず、こうした郊外の低所得者向け住居に群れるように暮らしている。中国の経済発展スピードは目覚ましいが、都市部とその周辺への人口増はそれ以上のスピードだから、こうした若者たちにはまともな仕事がない。地方の秀才が北京の大学を卒業したのだから、本来はエリートを嘱望される若者たちなのだ。だが今の中国ではこうした若者たちが、職もないまま北京郊外の低所得者向け住居にくすぶっている。人々はこうした若者たちを半ば揶揄するように「蟻族」と呼ぶ。頭はいいが個々の力は弱く、数が多くて、群れて暮らしているからだ。

 この映画はそんな「蟻族」の青年たちを描く青春映画だ。同世代の若い女性と、ふたりの男が主人公。女性はデザイナーになることを夢見ているが、現在の仕事は小さな服飾店での縫い子の仕事だ。彼女の恋人は定職がないままブラブラしている。彼らの隣室に住む男は、暗い早朝に部屋を出て北京市内の会社に通っている。ところがこの勤め先というのが、とんでもないブラック企業。従業員をノルマで縛り付けた上に、インチキな保険商品を売りつけるデタラメな会社なのだ。青年はこの会社がほとほと嫌になり、間もなくこの会社を辞めてしまう。そんな時、隣室の相棒に持ちかけられた「儲け話」に一口乗ってみれば、そこはこれまた怪しいマルチ商法の勧誘部屋だった。携帯電話を取り上げられ、契約するまで軟禁状態にされてしまうふたり。もう何が何だかわからない。洋裁店に勤める女性は、店主にセクハラされても仕事を辞めることができないでいる。やがて青年たちは、彼女の作った服を北京市内のファッションデザイナーや大手メーカーに持ち込む売り込み活動を始める。

 男たちには夢がない。生きることに精一杯で、先々のことなど考えられないでいる。その彼らが仲間の夢を応援しようと、北京市内をあちこち歩き回るのが後半の見どころ。ここに浮かび上がってくるのが、一部の人たちだけは確実に豊かになっている現在の中国の姿だ。中国は貧富の格差が広がっているという。この映画では都市部での貧富格差が描かれているわけだが、社会の最底辺を這い回るかに見える主人公たちがなぜ故郷に帰らないかと言えば、北京の最底辺よりも地方はさらに貧しいからに他ならない。(その貧しさの一端は他の中国映画で時々垣間見ることができる。)

 中国の都市部と言えば「反日」だの「PM2.5」だので最近は日本でも何かと報道されることが多いのだが、映画を観ているとそうした「報道」から漏れる、その土地で暮らしている人の生々しい姿が見えてくる。

(原題:今天明天 Today and Tomorrow)

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第26回東京国際映画祭 アジアの未来
配給:未定
2013年|1時間28分|中国|カラー
関連ホームページ:http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/lineup/works.php?id=A0003
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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