利休にたずねよ

2013/09/06 東映第1試写室
市川海老蔵が千利休を演じる異色の歴史時代劇。
地味だが見応えのある作品だ。by K. Hattori

13090601  安土桃山時代に活躍した茶人・千利休の伝記映画。山本兼一の同名小説を、「どんと晴れ」や「天地人」の小松江里子が脚色し、『火天の城』の田中光敏が監督している。「天地人」(直江兼続を主人公にした大河ドラマ)や『火天の城』(安土城の建築秘話)と同時代を描いた作品なので、作り手たちにとっては馴染みの素材だったかもしれない。千利休を演じているのは市川海老蔵。これまでにも利休を主人公にした映画は何本か作られているが、どの映画でも「わび茶」の創始者である「茶聖」のイメージを重視して、枯淡の味わいを醸し出すベテランの俳優に演じさせることが多かった。例えば『お吟さま』の中村鴈治郎や志村喬。『千利休 本覺坊遺文』の三船敏郎。『利休』の三國連太郎などだ。NHK大河ドラマでは「黄金の日々」で鶴田浩二、「秀吉」で仲代達矢、「利家とまつ 〜加賀百万石物語〜」で古谷一行、「天地人」で神山繁、「江 〜姫たちの戦国〜」では石坂浩二が千利休を演じている。こうした配役に比べると、今回の海老蔵の利休がかなり異色であることがわかる。

 この配役からもわかるとおり、今回の千利休は「枯れていない利休」だ。彼はただ一途に「美しきもの」を追い求め、最後の最後までギラギラと心の中の炎を燃やし尽くしている。だがその一方で、彼の求める「美」は虚飾を剥ぎ取ったむき出しの「生」であり、それがむき出しであるがゆえに、常にその背後に「死」を背負う迫力がある。映画を通して利休の美が観客に伝わるわけではない。海老蔵が自分を押し殺して本来の動きをじっと押し殺している様子が、内に秘めている情熱のほとばしりを観客に感じさせずにいないのだ。

 利休の芸術を「死」と対比させるための手段として、映画は物語を利休の切腹の日から始め、その後のエピソードをすべて「切腹まであと○年」という形で逆算して提示する。映画の中の全エピソードは、利休の「死」に向かって動いている。利休の言葉が、振る舞いが、すべて「死」と結びついて語られている。そして映画の終盤に、利休がなぜ「死」を背負って生きるようになったのかという秘密が明かされる趣向だ。

 よくできた映画だと思ったが、利休の妻を演じた中谷美紀の芝居には納得できない。原作がどうなのかは知らないが、この役は「静」の利休に対して「動」の人であってほしかった。死を背負って極限の美を追究する利休に対し、素朴で天真爛漫な自然体の美を体現する人であってほしかった。その方が利休の生き方の不自然さが際立つし、娘が亡くなるシーンでも、利休の切腹シーンでも、妻が素直に感情をあらわにした方が観客も共感しやすいと思うのだが……。まあでもこれは中谷美紀というキャスティングにした段階で、こうなることはわかってしまう。この役は別の女優を検討した方がよかったと思う。

 歴史ドラマとしては、地味ながら見どころの多い作品。伊勢谷友介の信長、大森南朋の秀吉も良かった。

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12月7日(土)公開予定 全国東映系
配給:東映
2013年|2時間3分|日本|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.rikyu-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:利休にたずねよ(山本兼一)
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