マリリン・モンロー。1926年に生まれ、1962年に36歳で謎めいた死を遂げた映画女優だ。アメリカ映画は第二次大戦後にスタジオシステムが崩壊し、テレビにも押されて少しずつ斜陽化して行くのだが、それでも彼女が活躍した時代にはまだ古き良きハリウッドの伝統が最後の輝きを放っていた。モンローはその落日の輝きの中で、わずか15年間の女優人生を燃え尽きさせた。映画の中の彼女は今も多くの人を魅了する。彼女の出演映画が残されている限り、彼女のファンになる人は今後も絶えないだろう。彼女は今後も永遠に、ハリウッドのセックスシンボルであり続ける。モンローはハリウッドの伝説なのだ。
彼女については、これまでに多くの本が書かれてきたし、多くのドキュメンタリー映画やテレビ番組が作られてきた。僕もそうした映画のうち何本かを観たことがある。本作『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』もそうした多くのドキュメンタリー映画の中の1本。本作の中のナレーションによれば、モンローについてはこれまでに千冊もの本が書かれ、それぞれの本によって独自のモンロー像が描かれているのだという。だから映画ファンがモンローについて知ろうとして本を読んでも、その人がどの本を読むかによって、モンローに対する印象はまるで違ったものになってしまう。モンローについて語ることは、語る人本人にとっての解釈を語ることでしかない。それがわかっていて、なぜ改めてこの映画が作られたのか。この映画はこれまでに作られたドキュメンタリーとどこが違うのか。それはこの映画が、モンロー自身の言葉でモンロー本人を語らせているところにある。
この映画のもとになっているのは、マリリン・モンロー自身が書きためた未公開のメモや手紙を集めた「マリリン・モンロー 魂のかけら」という本だ。死後半世紀を経て明らかになったこれらのメモや手紙には、モンロー自身のプライベートな覚書もあれば、悩み、苦しみ、葛藤などが赤裸々に語られているものもあった。映画ではこれを、グレン・クローズ、マリサ・トメ、ヴィオラ・デイヴィス、エヴァン・レイチェル・ウッド、ユマ・サーマン、ジェニファー・イーリー、エリザベス・バンクス、エレン・バースティン、リリ・テイラー、リンジー・ローハンなど10人の女優たちが読み上げている。またモンロー周辺の人物たちが書いた著書を、ハリウッドの有名俳優たちが読み上げる。それもまた、物凄く豪華な顔ぶれだ。
要するに彼らはみんな、マリリン・モンローが大好きなのだ。誰もがマリリン・モンローに自分を投影し、誰もが「自分も彼女と同じなのだ」と思っている。もちろん本当のことは誰にもわからない。だがあらゆる人が自分自身の姿を投影できる対象として、今後もマリリン・モンローは永遠のスターであり続けるに違いない。
(原題:Love, Marilyn)
原作:マリリン・モンロー魂のかけら
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