地獄でなぜ悪い

2013/07/25 東映第1試写室
映画は戦場だ。映画はセックスとバイオレンスだ。
園子温監督の映画への偏愛が炸裂。by K. Hattori

13072501  その日、武藤組の組長宅は血の海になった。敵対する北川会のヒットマン数人が、組長宅を襲ったのだ。だが運良く(運悪く)組長は愛人宅にいて留守。自宅にいた組長の妻しずえはヒットマンを返り討ちにしたが、逃げる相手を追いかけて刺し殺したことから、正当防衛が認められず10年の刑務所暮らしとなった。まだ幼い娘ミツコはCMタレントとして売り出し中だったが、事件の影響でCMは放送中止となった……。

 それから10年。武藤組長の妻しずえの出所が目前に迫っていた。組長の願いはただひとつ。自分の身代わりとして刑務所に入った妻に、立派な映画女優となった娘ミツコの姿を見せてやりたい。そのための準備は万端。撮影所では娘の主演映画撮影が着々と進んでいるはず……だった。だが、そのミツコが撮影所から逃げ出して男と駆け落ち。組長はすぐに、相手の男と一緒に娘を捕らえる。この男のせいで、武藤の唯一の夢はメチャメチャになってしまったのだ。かくなる上は、この男に死んで貰うしかない。だがこの時捕らえられた青年はミツコの恋人ではなく、たまたま現場を歩いていただけの無関係な男だった。だがそんな言い訳は通用しない。ミツコはとっさに、「彼はわたしの主演映画を撮ってくれる監督なの。わたしが現場を逃げ出したのは、彼に映画を撮ってもらうためよ」と嘘をつく。なるほど、筋は通っている。だがそうなれば、是が非でもこの男にミツコ主演の映画を撮ってもらわなければならない。しかし彼は映画についてはまったくの素人なのだ。

 同じ頃、自主映画製作グループ「ファック・ボンバーズ」のメンバーたちは、自分たちの夢を実現させるための道に行き詰まりを感じ始めていた。

 やくざ同士の抗争と自主映画製作がドッキングした、はちゃめちゃでシュールなスラップスティックコメディ(ドタバタ喜劇)。物語の視点は3つだ。ひとつは今回あらすじで紹介した、武藤組の組長と家族の物語。そこに巻き込まれる冴えない青年は、この家族の物語の付属物みたいなものだ。もうひとつは、武藤組と敵対する池上組の組長・池上純の視点。「妻のために娘主演で最高の映画を作る!」という武藤組長の突拍子もない野望を、真正面から受け止めるにはそれなりに突拍子もない人物が必要なのだ。池上はそうした役割を見事にこなしている。そしてこの映画を特徴づけている最大の要素が、10年以上に渡って自主映画を作り続けている「ファック・ボンバーズ」だ。映画のためなら死んでもいい!というその情熱は、触れれば火傷しそうなほどに熱い。この映画キチガイたちの放つ熱が、血まみれのやくざ抗争の熱量を凌駕しているところに、この映画の凄味がある。

 登場人物たちは誰もふざけていない。誰も彼もが必死になっている。でもそれがおかしくて仕方がない。最後は公権力に対する批判もチラリ。それを出し抜く長谷川博己が痛快だ。

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9月28日公開予定 新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:キングレコード、ティ・ジョイ
パブリシティ:ファックボンバーズ 宣伝統括:ヨアケ
2013年|2時間10分|日本|カラー|2.35:1|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://play-in-hell.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
主題歌CD:地獄でなぜ悪い(星野源)
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