トゥ・ザ・ワンダー

2013/05/15 アスミック・エース試写室
愛し合ったカップルの別れを一人称の視点と語りで描く映像詩。
良くも悪くもテレンス・マリック監督作。by K. Hattori

13051502  映像の詩人テレンス・マリック監督が、『ツリー・オブ・ライフ』に続いて撮ったラブストーリー。美しい映像を淡々と積み重ねて、そこにナレーションや音楽を重ねていくという手法は前作と同じ。僕は『シン・レッド・ライン』以降しかこの監督の映画を観ていないのだが、少なくとも『ニュー・ワールド』以降はずっとこのスタイルだと思う。どこから観てもテレンス・マリック。誰も真似できない、独特の作家性を持った監督だ。

 映画を観ればストーリーはわかる。だが登場人物の背景などはほとんどわからない。映画を観た後にプレス資料を見て、「こういう設定だったのか!」と思った場面もあった。しかしそうしたことを知ったとしても、映画の印象が大きく変わるわけではない。この映画にはそうした設定など不要なのだ。この映画の中からは、登場人物たちの属性を超越した「生身の人間」が伝わってくる。そこに確かにひとりの人間がいて、生きているという感じがする。この映画には観客に伝えられる教訓があるわけではないし、映画を観た後に幸せな気持ちになるわけでもない。でもこの映画を観ることで、他人の人生に確かに触れたという感覚は味わえるかもしれない。少なくともその人生の一瞬を、登場人物と共有したような気持ちになれるのではないだろうか。

 フランス人の女性とアメリカ人の男性が愛し合い、一度は結婚するがその後別れてしまうというストーリーだ。ヨーロッパにいた頃は、ふたりは幸せだった。だが男がアメリカに戻り、彼女も彼についてアメリカに渡った頃から、ふたりの関係はギクシャクしたものになる。女性の連れて来た子供は、アメリカの生活に馴染めず帰国を願う。ビザが切れるのに合わせて、彼女たちはフランスに帰国。だが男はそれを追わなかった。男は故郷の町で幼馴染みの女性に出会い、彼女と愛し合うようになる。フランスに戻った女性は子供が別れた夫のところに行ってしまい、ひとりアメリカに戻ることにする。男は幼馴染みと別れて彼女を出迎える。彼女と結婚するのだ。だがこの関係は最初から、ボタンの掛け違えのようなものだった。かつてはふたり一緒にいてあれほど幸せだったのに、今はふたりでいることが辛くて苦しいのだ……。

 アメリカ人の男にベン・アフレック、フランス人の女性にオルガ・キュリレンコ。幼馴染みの恋人にレイチェル・マクアダムス。カトリック教会の神父にハビエル・バルデムという豪華な配役。印象に残るのはバルデムが演じている神父だ。罪に満ちて崩壊しつつある世界の中で、神の愛を信じることだけを頼りにかろうじて生き続けている男……。

 映像は美しいが、観ていて少しも楽しくない映画だ。愛し合うカップルは別れ、その関係がもとに戻ることはない。人間の力では、世界の崩壊を止めることもできない。人の思いとは無関係に流れて行く時の中で、人間はあまりにも無力な存在なのだ。

(原題:To the Wonder)

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8月公開予定 TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館
配給:ロングライド、クラシック
2012年|1時間52分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|5.1ch
関連ホームページ:http://www.tothewonder.jp
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