旅立ちの島唄

〜十五の春〜

2013/04/24 シネマート六本木(スクリーン3)
中学卒業を前に少女から大人へと成長してゆくヒロイン。
南大東島を舞台にした青春映画。by K. Hattori

13042401  自分なりに「青春映画」というものの定義がある。それは「何者でもない人間が、何者かになろうとしてもがく物語」だ。その一番シンプルな形が「子供が大人になる物語」だろう。映画『旅立ちの島唄〜十五の春〜』はそうしたシンプルな青春映画だ。シンプルでありながら、観る者の心を揺さぶる力強さがある。野球で言えば、ストライクゾーンど真ん中に入ってくる剛速球。ボクシングなら、軽いジャブで距離を測った後に放たれる顔面へのストレートパンチだ。

 沖縄県南大東島には高校がない。島の中学生たちは中学卒業と同時に、島を離れて本島や本土の高校に進学する。島の少女民謡グループで歌う仲里優奈は、14歳の中学2年生。毎年春に行われる卒業コンサートでグループ最年長の中学3年生を送り出し、残った優奈がグループ最年長のリーダーになった。優奈の家族は5人。しかし島で暮らしているのは父と優奈だけだ。姉は高校進学と同時に島を出て、母もそれに付き添うように島を出た。兄も進学で島を出たきり、卒業後も島には戻ってきていない。母は那覇の小さなアパートで暮らしながら、優奈が進学するのを待っている。だがここ何年も、母は島に戻ってきていない。両親はこのまま離婚してしまうのではないか。そんな不安を優奈は抱えている。

 映画はヒロイン優奈が島で過ごす最後の1年を、時系列に淡々と描き出していく。映画冒頭に民謡グループのコンサートがあり、そこでは上級生を送り出す側だった優奈。それが1年たって、下級生たちから送り出される立場になる。新たに高校生になり島を離れる子供たちを乗せた船と、それを見送る島の大人たち。繰り返される風景の中から、大きなドラマが浮かび上がってくるラストシーン。1年前には子供だった少女が、今ここに大人の女性として立っているのだ。

 ヒロインが所属する少女民謡グループ「ボロジノ娘」は実在し、このグループを取材したTVドキュメンタリーを見たプロデューサーと監督が、オリジナルストーリーで作り上げた映画だという。ヒロインの優奈を演じるのは、『グッモーエビアン』で大泉洋と麻生久美子の娘を演じていた三吉彩花。彼女がコンサートで別れの曲「アバヨーイ」を歌いきるところは感動必至だが、それはこの歌の中に島との別れや家族との別れと共に、少女時代に対する決別の決意が込められているからだろう。目の前のステージで、少女から一息に大人に成長して行く娘を見守るのは、小林薫と大竹しのぶが演じる両親。この映画の中では受けの芝居に徹しているふたりだが、それでもベテランらしい貫禄で映画を盛り上げていく。島を去って行く娘をじっと見つめる小林薫の顔は、小津安二郎の『晩春』で花嫁の父を演じた笠智衆みたいだ。

 大人になることの痛み。知ることの痛み。そんな痛みを抱えながら、少女は島を去る。彼女はいつか再び島に戻る日が来るだろうか?

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4月27日公開 那覇・桜坂劇場
5月18日公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ビターズエンド 宣伝:ムヴィオラ
2012年|1時間54分|日本|カラー|シネスコサイズ
関連ホームページ:http://www.bitters.co.jp/shimauta/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
ノベライズ:旅立ちの島唄~十五の春
主題歌CD:春にゴンドラ(BEGIN)
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